国家公務員倫理法という汚職役人「赦免」のからくり<慶大名誉教授・弁護士 小林節>

山田真貴子前内閣広報官

衆院総務委員会で答弁する参考人の山田真貴子内閣広報官(辞任済み・写真中央)。後方左は武田良太総務相(時事通信社)

ひとつの行為にふたつの処分

   大学教授であった当時の私が車で「轢き逃げ」を行ったとしよう。(もちろん架空の話ではあるが)過失運転致死傷害罪と危険防止措置義務違反の併合罪で15年以下の懲役刑に処せられてしまうだろう。そして私は「前科者」になる。  しかし、とがめはそれだけでは済まされない。  次に、私が奉職している(つまり雇用されている)大学から、「大学の名誉を傷つけた」として懲戒解雇されるだろう。そして私は「元教授」になる。  結果的に、私は、刑務所にぶち込まれて、並行して、職場で地位を失ってしまう。もちろん、当然の報いではある。  しかし、「轢き逃げ」という「ひとつ」の行為で「ふたつ」のペナルティーを食らう結果になる。とはいえ、これを「過重だ」と思う人はいないはずである。

刑事処分と行政処分

   つまり、刑事処分と行政処分は別ものである。  まず、刑事処分であるが、私は、日本国の刑事法(刑法と道交法)に触れて、日本国から処断された訳である。  次に、行政処分であるが、私は、職場の就業規則に触れて、その法人から処断された訳である。  つまり、「ひとり」の人間が、国家という全体社会と大学という部分社会の「ふたつ」に所属しているために、「ひとつ」の行為で「ふたつ」の規範に違反して、結果として「ふたつ」の法人からペナルティーを受けた訳である。これは当然の事である。
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国家公務員倫理法というからくり
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月刊日本2021年3月号

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