「Jアノン」はなぜ日本でトランプを支持したのか?<陰謀論問題だけでは片付かない日本的ナショナリズムの危うさ 第2回>

2020年11月29日の都内でのデモと新中国連邦の一群

2020年11月29日の都内でのデモと新中国連邦の一群

 前回、米国連邦議会突入事件の直前に日本で行われていた、「Jアノン」によるトランプ応援デモの構成団体等について整理した。今回は、本家「Qアノン」とは少々事情が異なるJアノンについて、何が問題なのかを掘り下げていきたい。

路上の主力は既存の宗教組織

 昨年12月30日掲載の記事「日本で繰り返されるトランプ応援デモの主催者・参加者はどんな人々なのか」で、私は〈バイデン氏が大統領に就任し大統領選が決着した後の方が、Jアノンはややこしい「発展」を見せるのかもしれない〉と書いた。それは、この運動が単純なトランプ応援運動ではなく、トランプ氏が姿を消した後も運動の大義名分である「中国共産党問題」はなくならないからだ。  ましてや、路上でのトランプ応援デモは、それ以前から政治活動を展開してきた宗教団体系の組織が支えている。  幸福の科学は2009年の幸福実現党結成から現在まで、公式非公式に様々な政治運動を展開し、関係者が他の保守運動と連携してパフォーマンスを行う場面もあった。2012年に発生した幸福の科学信者による尖閣上陸事件は、鹿児島県内の保守活動家とともに行ったものだし、前回触れたの仲村覚氏やその母親の活動、日本会議方面との関わりも、類似のケースだろう。  幸福の科学や関連する人々が主張する政策等は多岐にわたるが、中でも重視されているのが国防強化と第二次大戦における日本関連の歴史修正だ。  国防関連で幸福の科学は、中国や北朝鮮の脅威を念頭に日本の核武装を主張しており、必ずしも米国から歓迎されない要素も含んでいる。しかし一方で、沖縄基地問題においては基地反対運動を批判し、対中国を見据えた国防のための米軍基地の意義を主張する。また歴史認識に関しては、南京大虐殺や従軍慰安婦の存在を捏造であるかのように主張し、「大東亜戦争」を正当化している。もともとこうした路線の政治主張を伴って、その上でトランプ大統領を支持してきた。  一方で、同じくサンクチュアリ協会と関わりがあると思われる「トランプ大統領を支援する会」の事務局長である小林直太氏はデモに際しての記者会見で、「4年前からトランプ大統領を応援してきた」旨を語る。またサンクチュアリ協会本体は2018年、アメリカで銃を携えて合同結婚式を行う異様な様子が現地の複数メディアに報じられた。The Philadelphia Inquirerはこれについて、「トランプ大統領に感謝する夕食会」を含む催しだったと報じている。  サンクチュアリ協会系の運動も、トランプ支持を打ち出してきた。しかし幸福の科学と同様に、日本における彼らの運動は決してトランプ支持がメインテーマだったわけではない。  サンクチュアリ協会と関わりがある日米同盟強化有志連合は、米大統領選より2年も前の2018年からYouTubeで首相官邸前集会の演説動画を配信している。トランプ応援運動のために結成された団体というわけでもなく、YouTubeで彼らが最初に配信された集会のタイトルは「首相官邸前・安倍総理応援集会」だ。動画を見ると、トランプ大統領を支援する会」ののぼりも1本見えるが、星条旗も1つだけ。安倍首相(当時)の顔写真入りののぼりやプラカードと日の丸で埋め尽くされている。  いくつもの星条旗を振りトランプ氏の顔写真を入れた大型横断幕を使いトランプ氏のコスプレまで登場するような、昨年からの一連のデモや集会とはかなり違う。  もともと、サンクチュアリ教会の分派元である統一教会(現・世界平和統一家庭連合)も、国際勝共連合として反共運動を展開してきた歴史があり、安倍晋三氏と親しい関係にある。ジャーナリストの鈴木エイト氏が本誌で幾度となく言及しているように、統一教会もまた学生組織「勝共UNITE」を通じて安倍政権を支持し、自民党政治家とも接点を持ってきた。  大統領選が盛り上がるはるか以前から、幸福の科学もサンクチュアリ協会も保守的な色合いの強い、日本特有の政治運動をそれぞれに続けてきた。  その点は法輪功も同じだ。トランプ応援デモ等の現場に現れ自分たちが発行する新聞を配ったり、法輪功系メディアがデモを取材・報道して拡散したりという形で、運動に参画している法輪功だが、もともとは長年、中国における人権侵害を告発するというスタイルで反中国共産党運動を続けてきた。  大統領選近辺からの変化は、これらが「トランプ大統領」に全力で乗っかる装いを強めたこと。そして、当初は別々にデモ等を行ってきたサンクチュアリ協会系と幸福の科学系の2つの勢力が、1月6日の都内での「最後の戦い」において大集合したことだ。

Jアノンの広がりと連携

 上記の勢力はいずれも「Qアノン」を自称していない。経緯を見ても明らかにように、Qアノンとは全く出自と実績が違う。彼らのデモでは、大統領選で不正があったとするQアノンの陰謀論に重なる主張があるが、彼らがQアノンそのものというよりは「便乗組」と見たほうが良さそうだ。  日本ではこれらと別途ネット上で自ら「Qアノン」への信奉を標榜しているグループがある。その本隊なのかシンパなのか、全く無関係の「野良アノン」なのかわからないが、1月17日の福岡のデモでは「Q」の文字を身に着けた参加者もいたようだ。1月6日の東京でのJアノン・オールスター・デモではその類いには気が付かなかったが、当然参加者のなかに混じっていた可能性は低くない。  しかし路上での運動の中核は、前述の通り既存の宗教勢力やそれがからむ政治運動だ。  「Qアノン」と関係なく以前から「地道に」政治運動を続けてきた既存勢力が、「トランプ応援」を旗印に存在感を増し、あるいはQアノンに便乗して相互に煽り合い、一定の勢力として路上に集結した。一連のデモ等で目にした旗などから見るに、チベット、ウイグル、内モンゴル等に関する人権運動や独立運動も一部合流しているか、あるいは利用されているように思える節もある。  この複雑さは、深刻だ。JアノンはQアノン的な陰謀論の単純な日本版ではない。むしろ、中国の人権問題、民族問題、日本のナショナリズムや国防意識、宗教的な世直し意識など、目的や立場や利害の異なる人々が「反中国共産党」の旗のもとに集まった総体が「Jアノン」だろう。つまりは、「陰謀論はよくないですね」では片付かない。
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中共批判とレイシズムの混同、混在
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