南米を侵食するワクチン外交。「スプートニクV」で覇権を狙うロシア

スプートニクV

Wikimedia Commons (CC BY 4.0)

南米に大量輸出されるロシア製ワクチン

 ブラジル5000万ダース、メキシコ3200万、アルゼンチン1000万、ベネズエラ1000万、ボリビア260万、更にウルグアイ、ニカラグア、キューバを加えた以上のリストはロシア製のコロナワクチン「スプートニクV」の購入開始を決たラテンアメリカの国名とその買い付け開始量だ。このリストにチリ、ペルーも加わることになる。〈参照:「El Pais」〉  ラテンアメリカについてトランプ前大統領の政権当初は関心の薄れから中国が資源の輸入とインフラへの投資でラテンアメリカにおける勢力を拡大した。コロナ禍になってから今度はロシアがワクチンスプートニックVを餌にラテンアメリカにおける影響力を拡大している。中国そしてロシアの飛躍の前に米国のラテンアメリカにおける影響力は次第に影が薄れている。

親米政権終了後のアルゼンチンにロシアがワクチンで再接近

 ラテンアメリカにおけるスプートニックVの先鞭を切ったのはアルゼンチンだ。アルゼンチンはアストラゼネカとコバックスを通してワクチンの入手を計画した。しかし、コロナ感染が拡大して行く中で多量にワクチンを入手できる手段を模索していた。この国家の願望に個人的に力を貸したのがクリスチーナ・フェルナンデス副大統領であった。彼女が大統領だった時にロシアと中国とは親密な関係を築いていた。その後、マウリシオ・マクリが政権に就いてからアルゼンチンの外交は180度転換して米国寄りとなった。  2019年12月にアルベルト・フェルナンデスが大統領に就任すると、クリスチーナ・フェルナンデス上院議員は副大統領となって政権に復帰した。そこで彼女はロシアのプーチン大統領に接近してスプートニックVの購入を打診した。マクリ前大統領の政権下でアルゼンチンへの影響力を無くしていたロシアにとって、彼女からのアプローチはアルゼンチンと再び強い絆を復帰させる絶好の機会だと見た。それまでロシアがこのワクチンを輸出したのはロシアの姉妹国であるベラルーシだけであった。  プーチンの好意的な反応を見たアルゼンチンはこのワクチンの輸入に取り組んだ。その過程を筆者はスペイン紙『El País』(2月3日付)を参考にした。 ●10月17日、アルベルト・フェルナンデス大統領の補佐官セシリア・ニコリニと保健省の長官カルラ・ビソンティがロシアを訪問。10日間の滞在で臨床試験の第3相のデーター検査を入手。 ● 11月5日、フェルナンデス大統領はプーチン大統領と電話会談。 ● 12月10日、フェルナンデス大統領はスプートニクVの輸入を正式発表。 ● 12月12日、アルゼンチンからスプートニックVについてより詳細に情報を得る為に関係者グループをロシアに派遣。スプートニックVについての情報は世界的にも乏しく、またスペイン語での解説は存在していなかった。というのも、このワクチンを生産しているガマレーヤ疫学・微生物研究所では当初輸出への取り組みは考慮外であったからである。アルゼンチンから派遣されたグループのメンバーは現地で生産工場を訪問し、ロシア語からスペイン語に数百ページにも及ぶ資料を翻訳した。この作業を急いだのもフェルナンデス大統領はこのワクチン接種を2020年末までに実施することを希望していたからであった。 ● 12月23日、ロシアに派遣されたグループからの情報を基にアルゼンチンで正式にこのワクチンの接種が認定された。但し、接種の対象になる年代層は18歳から60歳までとした。60歳以上の年齢者に対しての臨床結果がまだ十分にされていなかったからである。当初ワクチンは恐れるに足らないということを表明する為にフェルナンデス大統領が最初にワクチン接種を受けることを予定していた。しかし、彼は62歳ということで当初この接種を遠慮した。 ● 12月24日、前述のロシアに派遣されてアルゼンチン国内での接種が認定されるための情報集めをしていたグループが帰国。その際に30万ドーズのスプートニックVをアルゼンチン航空に積んで帰国した。
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ロシアの「迅速」な対応に他国も追随
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