エグすぎる格差社会を食べ残しで象徴する映画『プラットフォーム』、その真の問題とは?

©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE

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 1月29日より、スペイン映画『プラットフォーム』が劇場公開されている。  本作が描いているのは明確に「格差社会」である。近年、その世界的な問題が顕在化してきたためか、2019年には『ジョーカー』や『アス』、『パラサイト 半地下の家族』など、格差社会の構造をエンターテインメントとして描いた映画が数多く公開されたが、本作はその中でも「変わり種」と言える内容だろう。  そして、本作は2019年の第44回トロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門で観客賞、第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀作品賞など4部門を受賞し、大好評で迎えられている。設定やビジュアルの奇抜さだけで終わらせず、しっかりと今日的なテーマを描き切った秀作だったのだ。その魅力や特徴を、大きなネタバレのない範囲で解説していこう。なお、本作はR15+指定がされており、猟奇的な内容も含むため注意してほしい。

食べ残ししか食べられない

 青年のゴレンは目が覚めると「48階層」にいた。中央には大きな四角い穴があり、下まで延々と階層が続く塔のような建物の中だった。各階層には2人の人間がいるようで、ゴレンは同じ階層にいた老人から状況を聞き出そうとする。そして、上の階層から巨大な台座に乗せられた食事が運ばれてくる。それは、上の階層にいる者の「食べ残し」だった。  ジャンルだけ見れば、「閉鎖的な空間で目覚める」ということから始まる「ソリッドシチュエーションスリラー」だ。有名どころで言えば、『CUBE キューブ』(1997)や『SAW ソウ』(2004)を思い出す方が多いだろう。情報が少ないからこその戸惑い、手探りで何とか状況や謎を理解しようとする登場人物の心理は観客とほぼ一致しているため、誰でも入り込みやすいという特徴がある。
©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE

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 この『プラットフォーム』は、数あるソリッドシチュエーションスリラーの中でも、飛び抜けて寓話(教訓や風刺を含む物語)性が高い。何しろ、上の階層から降りてくるのは食べ残しであり、上の者がたくさん食べるほど下のものが食べられる量は必然的に減っていく。下の階層の満腹度、いや生き死には上の階層の者たち次第。この状況こそが、誰の目にも明らかなほど「格差社会そのもの」になっている、というわけだ。

下に行くほど絶望的な状況に

 言うまでもなく、この場所で食べることができるのは、「表向きは」その食べ残しに限られる。階層が下に行けば行くほどに食べ残しは少なくなり、もはや食べるものがないという状況にすらなる、ということは誰にでも想像がつくだろう。  そして、この塔のような建物の中では、1ヶ月ごとに階層が入れ替わるというルールがある。1ヶ月後に眠らされ運び込まれた先が、どの階層になるのかはわからない。そこで、食べ残しすらない遥か下の階層で目覚めてしまったら、次の階層に移動するまでの1ヶ月間は「何を」を食べて生き延びればいいのか……? 先ほどの「各階層には2人の人間がいる」を踏まえれば、その答えは明白だろう。人間を殺して食べるしかなくなるのである。
©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE

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 その時点で絶望的だが、「数ヶ月にわたって連続で遥か下の階層」にいることがあり得るということも恐ろしい。いや、運次第では上の階層で多くの食べ物にありつけるという点においては、現実の「下の者がどうやっても上へ這い上がれない」ことが多い格差社会よりも、ある意味では希望があるのかもしれないのだが……。  
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その人自身の問題
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