各国の英語を完全に再現する「発音の鬼」、その職人芸の裏側に迫る

daijiro氏

Daijiro氏のYouTubeより

 「だいじろー@発音トレーナー」氏がユーチューブチャンネルで配信する英語モノマネ動画が、ネット上で話題沸騰中だ。  アメリカとイギリス英語の違いはもちろん、インド、タイ、韓国、中国などの英語話者のクセや、いかにも言いそうな内容をほぼ完璧に再現する様子は「リアルすぎる」「すごくわかる」などと、日本人のみならず英語ネイティブからも絶賛されている。  さらに英語だけでなく「外国人が話す日本語のものまね6選」、168万再生を記録した「【エセ日本語】外国人には日本語がこう聞こえる」など、変幻自在なアウトプットぶりには舌を巻くばかりだ。  またネタ動画だけでなく、「脱・日本語訛り英語」シリーズとして英語の発音方法について有用な解説も行なっている。  その言語へのあくなき探究心の源泉はどこにあるのか? 本人を直撃した。

九州出身の母と東北出身の父の話す言葉の違いが原点

 「昔からさまざまな発音を真似ることが好きで、学生時代からずっと声真似などをして周りからウケをとっていました。各外国人のモノマネは、これまで出会った人や、映画やドラマをモデルにしたものです」  佐賀県出身の母親と秋田県出身の父親の間に生まれただいじろー氏は、父親の秋田弁と、母が親戚と話す時だけ佐賀弁になる様子を見て、幼い頃から言語の違いに対する興味を育んできた。  英語との出合いは、中学二年のとき。札幌市が主催したオーストラリアへのホームステイプログラムに参加したことがきっかけだった。  大学では香港に交換留学。卒業後は日本の会社に就職するも半年で退職し、タイに渡った。これといった目的はなく、大学の同級生にタイ人が多かったため親近感があったというのが主な理由だった。  そしてタイの日系企業のサラリーマンとして5〜6年を過ごし、終盤は友人とともにユーチューブでタイの番組を開設。やがて軌道に乗り専業となったが、病気で離脱し日本に帰国した。  「帰国後はタイ時代と同じく、ユーチューブで英語を使った動画配信をしようと考えていたのですが、英語系のユーチューバーは群雄割拠。そんな中で、発音をメインにしている配信者は日本人にはほとんどいませんでした。そこで、自分の強みである発音をコンテンツにしようと思い立ちました」

大人の第二言語発音習得で重要となるのは、「調音音声学」

 発音系というブルーオーシャンを見つけただいじろー氏は、すぐさま各国の発音モノマネ動画を配信。瞬く間に反響を得た。  だいじろー氏があらゆる発音を自由自在に駆使できる秘訣は、音声学の基礎。高校時代、書店で音声学の教本に出合い、のめり込むようになった。  「よく『耳が良いんだね』と言われますが、それが発音の良さの本質ではないと考えています。特に調音音声学というジャンルでは、その言語にどんな音が存在し、どのような口と喉の形を経てその音が出るのかといったことが解析されている。発音は英検やTOEICには直接関係ありませんが、その仕組みがとにかく面白くて、取り憑かれたようにハマっていきました」  音声学の理論を知ることで、言語の自然習得が難しい大人でも効率的に発音を習得できるようになる。  「何年留学しても、発音がよくない人は多い。成人すると脳に母語が定着しているので10〜15年現地に住んでも自然と覚えることはほぼありません。逆にいうと、理論にもとづけばネイティブに近い発音は誰にでもマスターできる。アメリカとイギリス英語の違いも音声学を知っていれば一目瞭然です」  とはいえ、メジャー言語の発音は日進月歩で変わっているため、理論だけでは限界が生じるのも事実だ。  「日本語ですら母音が時代とともに少しずつズレている。英語の発音も日々変わっているし、辞書の発音記号も最新のものとずれるため、『Youglish』(知りたいフレーズを入力すると、YouTube動画の中でそのフレーズを発音している場面が米英豪それぞれの英語でピックアップされ再生されるサイト)で確認することは欠かしません」  そうした状態を打破する最後の決め手が「モノマネ」だ。外国語を学ぶ上で必須と言われるのが「恥を捨てること」だが、存外に難しい。だいじろー氏は独自のメンタルブロックの外し方について語る。  「発音を矯正するコツやテクニックをすぐに求める人が多いのですが、まずはコンフォートゾーンを抜け、自分を変えるということを心の底から理解できているか否かに尽きます。たとえば、日本語ネイティブでも半沢直樹の『倍返しだ!』を表情やジェスチャーまで含めて忠実に再現するのは難しいですよね。それをするには、利き手を変える、味噌汁を『みさしる』と言い替えるくらいの抜本的な変革を起こさなければなりません。僕の場合、もともとモノマネが好きというのもありますが、『ジェームズ君』といったペルソナを作り出して英語が持つ文化背景にキャラを合わせにいく。ステレオタイプではありますが、イギリスだと気取った感じ、アメリカだとフレンドリーといった調子です。別人格なので、恥ずかしいとは感じません」  それでも踏ん切りがつかない人には、こんなエクササイズを勧める。  「大人になるにつれ思考が硬直し、間違うことが怖くなるのも一因。一度赤ちゃんに戻ったつもりで『うえ〜』などと言ってみると、気持ちがほぐれると思います
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英語上級者が最後にくぐる門が、発音矯正
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