菅首相が大好きなパンケーキを振る舞う抗議活動「パンケーキ・ストライキ(略してパンスト)」を行う筆者
日本学術会議に対する菅義偉首相の人事介入に抗議して、私は10月29日と11月1日に首相官邸前の路上で菅首相が大好きなパンケーキを振る舞う抗議活動「
パンケーキ・ストライキ(略してパンスト)」を行った。パンケーキを焼くテーブルの周囲に、
「日本学術会議への人事介入に抗議する」「スガ出てこい パンケーキだぞ」「パンスト実行中」といったプラカードを並べた。
この場所では10月26日まで
著述家の菅野完氏が、同じく日本学術会議問題に抗議して
25日間にも及ぶハンストを行っていた。「パンスト」は、言うまでもなくこれに関連付けたものだ。
パンスト1回目の10月29日は夕方から夜まで、2回目の11月1日は正午過ぎから夜まで、ひたすら路上でパンケーキを焼いた。SNS等でパンスト情報を目にしてわざわざ来てくれた人、通行人、官邸前で読書をするというスタイルで抗議を表明している人々に無料でパンケーキを振る舞った。
寒空の下で官邸前を警備する警官にもおすそ分けをしようとしたが、それは断られた。しかしパンケーキを焼いて振る舞うことを警察に咎められることはなく、現地を訪れた東京消防庁の職員からは「火の近くに燃えるものを置かないように」「突風に気をつけて」といった助言だけで、中止は求められなかった。
またカンパをしてくれる人もいれば、メープルシロップやバター、トッピング用の果物を差し入れてくれる人もいた。淹れたてのコーヒーを大きなポットで差し入れてくれた人もいた。すぐ隣で寝泊まりしながら座り込みを続けている女性は、アウトドア用のテーブルを貸してくれた。
お茶会の会場と化した路上でパンケーキを食べながら、学術会議問題だけではなく沖縄問題、原発問題、大阪都構想問題、創価学会・公明党問題などを語り合ったりもした。つい何日か前までこの場所でハンストをしていた菅野氏が何を訴えてきたのかについても語り合った。バカバカしいパフォーマンスにお互い笑いながらも、実に政治的な空間だった。
実は私にとって、自身が主催した初めての直接的な政治活動だ。いままで私はカルト宗教等の問題を取材することをライフワークとしてきた。カルト集団に対する抗議活動や批判的パフォーマンスを繰り返してきたが、「政治」に対しては行ってこなかった。カルト問題がらみ以外では政治関連の記事を書いたこともほとんどない。
今回の行動のきっかけは、菅野氏のハンストだ。
菅野氏は10月2日から25日間、この場所でハンストを行った。体重を約8キロも減らしながら、菅野氏は「戦え」と訴え続けた。学者や学生が戦っていないと怒り、メディアが戦っていないと怒り、同時に官邸前に立って抗議を表明する人々を讃えた。官邸前で抗議集会を行った団体の求めに応じてのスピーチでは、「ここに来て戦おうとしている皆さん、ぜひ自分の家、自分の職場、自分の学校に戻ったら、それぞれの持ち場で戦ってください」と呼びかけた。
ハンスト中に抗議していた団体の求めに応じてスピーチをする菅野氏
SNSでハッシュタグを付けて自らの抗議行動や主張を拡散することもなかった。ハンストの継続を証明するために自身の姿をネット中継し、その日の出来事や主張を日記のようにFacebookに書き続けた。SNS等での盛り上がりやイベントへの動員で満足しがちな風潮に抗う手法だった。
大手メディアは菅野氏の活動や主張を一切、報道しなかった。ネット上では菅野氏を揶揄したりくさしたりする人々が目立ち、わざわざ官邸前に来て菅野氏の眼前でカップラーメンを食べてみせる嫌がらせをする者もいた。
同時に、菅野氏にカンパや差し入れをしに来る人々もいた。ハンストが続くにつれて、官邸前で静かに読書をするという行動をとる人々が増えていった。平日でも出勤の前や仕事からの帰宅途中とおぼしき「読書者」の姿があった。雨の日にもいた。菅野氏のハンスト期間中の最後の週末には、延べではなく同時に最大で約40人が読書をしていたという。
誰かがSNS等で呼びかけたり示し合わせたりしていたわけではない。個々人がそれぞれのタイミングで現れて読書をし、それぞれのタイミングで帰っていく。そのほとんどが、互いに会話や挨拶を交わすこともない。完全に独立した個人だった。菅野氏はこれを高く評価し、自身の運動の「勝利」だと語った。
読書をする人が現れると官邸前を警備する警官が無線で「抗議の人が来た」という趣旨の連絡をする。
「
ただ静かに読書をすることが反政府運動であると官憲がみなしている。そのことが官邸前で可視化された」(菅野氏)