「桜を見る会」問題は終わりではない。招待者名簿を開示せよ<毎日新聞統合デジタル取材センター記者・吉井理記氏>

桜を見る会の安倍と菅

2019年の「桜を見る会」で乾杯をする安倍晋三前首相(最後列右から2人目)、菅義偉現首相(中列右から3人目)ら(時事通信社)

「桜を見る会」疑惑の本質

―― 吉井さんは毎日新聞の「桜を見る会」取材班として、「桜を見る会」疑惑を追及してきました。この疑惑は安倍前首相だけでなく、当時官房長官だった菅首相も説明責任を果たさなければならない問題です。改めて「桜を見る会」疑惑の本質を教えてください。 吉井理記氏(以下、吉井)「桜を見る会」にはいくつもの問題点があります。一つは、公金の私物化という問題です。  桜を見る会には安倍首相個人の支援者が多数招待されていました。菅官房長官(当時)は当初、「総理枠、政治枠といった特別なものはない」と否定していましたが、最終的に、2019年の桜を見る会には首相推薦の招待者が約1000人、自民党推薦の招待者が約6000人いたことを認めました。実際にはさらに多くの招待者がいたのではないかと見られています。  桜を見る会は国の公式行事であり、税金が使われています。税金は、言うまでもないことですが、国民全体の福祉や公益のために使わなければなりません。一国の首相が自分の支援者たちを接待するために税金を使うなど、決して許されないことです。  これは民主主義の根幹に関わる問題です。民主主義は選挙を基本とします。選挙では、政党や候補者の主張を踏まえ、有権者たちが自由な意思に基づき投票を行うことが前提になっています。それゆえ、有権者に対する供応接待は、公職選挙法で厳しく禁じられているのです。そういう意味では、桜を見る会は民主主義を歪めるものだったと言えます。

前夜祭、そして名簿破棄……

 もう一つの問題は、安倍首相の後援会が主催した桜を見る会の「前夜祭」です。この前夜祭は2013年から開催されており、2019年の前夜祭はホテルニューオータニ東京で開かれました。参加者は800人以上に及び、その場には安倍首相夫妻も姿を見せています。  政治家の後援会など政治団体がパーティーを開く場合、政治資金収支報告書の収入欄にパーティー券代を記入し、支出欄に会場代や飲食代などの費用を記入しなければならないことになっています。しかし、安倍首相の関連政治団体の政治資金収支報告書には、2015年以降、前夜祭の収入・収支の記載が見当たりません。  首相側の言い分は、次のようなものです。安倍事務所は参加者から一人5000円を集金し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受付終了後に集金したすべての現金をホテル側に渡して支払いを行うという形をとったため、安倍晋三後援会としての収入・支出は一切ない。それゆえ、政治資金収支報告書への記載は必要ない――。  しかし、一般には、事務所側が参加者から会費を受け取った時点で収入が発生し、それらをとりまとめてホテル側に支払った時点で支出が発生するとされます。安倍事務所の対応は政治資金規正法に抵触している可能性があります。  また、桜を見る会の招待者名簿が消えた問題も見過ごせません。私はこの問題こそ最も深刻だと考えています。野党やメディアが招待者名簿を提示するように求めたところ、内閣府は紙の招待者名簿はシュレッダーにかけ、電子データは消去したと述べました。しかし、桜を見る会は基本的に毎年開催される行事です。官僚は前例主義、文書主義ですから、彼らが資料を捨てたとはとても思えません。  公文書をめぐっては、共産党の宮本徹衆議院議員が内閣府に招待者名簿を含む資料請求を行ったところ、その日のうちに招待者名簿が破棄されるということも起こっています。もし宮本議員の資料請求を知りながら公文書を破棄したとすれば、大問題です。  公文書は予算や政府権力の公正な執行を証明し、国民への説明責任を果たすために欠かせないツールです。しかも、公文書は税金で作られているわけですから、政府の都合によって勝手に捨てたり削除したりしていいものではありません。公文書管理法では、公文書は民主主義の基本であり、将来・現在の国民に対する説明責任を果たすために必要だと規定されています。安倍内閣の対応は民主主義を蔑ろにする振る舞いだったと言わざるを得ません。
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菅首相は説明責任を果たせ
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月刊日本2020年11月号

【特集1】日本学術会議 言論統制は亡国への道

【特集2】国家観なき政治家に危機が突破できるか

【特集3】菅総理を揺るがす「負の遺産」