コロナ禍の自殺増で注目を集める「いのちの電話」。繋がりにくい理由は相談員の減少にあった

いのちの電話イメージ

yamasan / PIXTA(ピクスタ)

 著名人の自殺報道には心を痛めざるを得ない。そんなとき、テレビのニュースやWeb記事の最後でよく目にするようになった「いのちの電話」。実はこの団体について「よく知らない」という人が多いのではないか。

30代以下の若い女性の自殺が急増

 新型コロナウイルスがもたらした経済的・社会的不安の拡大が止まらない……。厚生労働省と警察庁は、今年8月の自殺者数が1849人(全国速報値)となり、前年同月比で246人増えたと発表した。なかでも、特に目立ったのが30代以下の若い女性で、前年比でプラス74%と急増。10代に至っては、実に3.6倍にも跳ね上がっている。最近でも、小さな乳飲み子を抱えていた女性芸能人の自殺がセンセーショナルに報じられたばかりだが、なぜ、若い女性ばかりが自ら死を選択する傾向が顕著なのか。日本自殺予防学会理事長の張賢徳氏が話す。 「そもそも日本では、女性よりも男性や高齢者の自殺率のほうが高い傾向にあります。しかしステイホーム中、ある種もっともストレスを受けているのが主婦ではないでしょうか。夫や子供が一日中家で過ごすことでの負担に、身も心も疲れてしまう人が多いのは想像に難くありません。同じことは韓国など、男尊女卑的な社会背景のある国で見られます」
いのちの電話

今年8月の1か月間に自殺した人は全国で1854人。去年比で16%の増加が見られる。特に30代以下の若い女性の増加が顕著だ

人手不足で「繋がりにくく」なったいのちの電話

 一方、ここにきて自殺報道のあり方も変化の兆しが見られる。テレビの報道番組やワイドショーで芸能人の自殺を取り上げた際、必ず最後に「いのちの電話」の番号表記を掲げるようになった。だか、ここで気になるのはいのちの電話とはそもそもどういった団体なのか? という疑問だ。今回、日本いのちの電話連盟事務局にその設立からの経緯を問い合わせてみた。 「’53年にロンドンで始まった自殺予防のための電話相談が発端です。日本ではドイツ人宣教師が中心となり、’71年に設立しました。現在、全国に50のセンターがあり、約6000名のボランティア相談員が24時間365日、年間約62万件の相談に応じています」  ただ、SNS上などで「電話がつながらない」といった声が溢れているように、人出不足の問題は深刻のようだ。実際、電話で直接対応する専門の相談員はすべてボランティアで賄っている。加えて、丁寧に話を聞く「傾聴」を中心とした研修が必須であるため、人員確保は容易ではないという。 「実は、『自殺傾向』のある電話は全体の約10%ほどしかありません。それでも、相談員は一度電話に出たら相手の話に徹底的に耳を傾けます。ですから、すべての相談を受けるためには相談員を増やすしか方法がないのが実情です。また、電話相談の受信件数は繋がったときしかカウントできないので、出られなかった数まで含めた総数は把握できないのです。この20年で相談員の数は約3割減少しており、せっかくかけていただいたのに繋がらないという声には本当に申し訳ないと思っています」
いのちの電話

相談の受信件数はここ10年ほど減少の一途を辿るが、これはボランティア相談員の減少の表れ。かかってくる電話の総数は不明だ

 相談員減少の背景には、女性の社会進出が進み主婦が減ったことや、ほかのボランティア団体や相談窓口が増え、相談員側の選択肢が広がったことなど、複合的な理由が考えられる。約50年前の設立時とは大きく社会構造が変化したことが影響しているのは確かだ。
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相談員経験者が語る、電話をかけてくる人の実像
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