発病から超速で退院。プレジデント仕様のゴージャスな処方とその危険度

President Trump Arrives Back At White House After Stay At Walter Reed Medical Center For Covid

10/5に退院後、ホワイトハウスのバルコニーに登場したトランプ大統領 (Photo by Win McNamee/Getty Images)

トランプ氏COVID-19発病

 前回は、トランプ大統領の最側近とされるホープ・ヒックス氏のCOVID-19感染に端を発して発覚したホワイトハウスにおけるCOVID-19大規模アウトブレイクについて、いつ、何処で発生したのかを時系列を復元しながら論じました。  トランプ氏は、10月1日の検査で陽性を示し、その後10/2夕方にはメリーランド州のウォルター・リード合衆国軍医療センターへ大統領専用ヘリマリン・ワンで搬送され、そのまま入院となりました。  その後、極めて不透明”untransparent”な状況下、トランプ氏の病状の推移と治療について様々な情報を突き合わせて真相に迫ろうという努力が成される中、合衆国時間の10月5日月曜日18時30分頃、約72時間の入院を終えてトランプ氏は退院し、ホワイトハウスに戻りました。10月8日にCNNの報じるところでは、10月7日にはトランプ氏はオーヴァルオフィスと西翼の執務室に戻り、執務を再開したとのことです。  これはとても考え難いことで、世界を驚かせていますがホワイトハウスの秘密主義のために何が起きているのかよく分かりません。今回は、断片的な情報をもとにトランプ氏のCOVID-19発病後から退院直後までの経緯を紐解きます。なお筆者は医学教育を受けた人間ではありません。本稿はあくまで報道情報などから得た知識に基づく論評です。実際の医療情報は、かかりつけの医師などへ相談する様にしてください。  今回も英語報道の参考リンクが非常に多いですが、比較的平易な英語ですので、ブラウザの自動翻訳でサッと読むには十分な翻訳が得られます。精読する際は、自分で虫繕いしながら翻訳してください。  なお、一般的なCOVID-19の感染後の推移は、次の図のようになります。トランプ氏の発病後の時系列は、最初から大きく外れているように思います。
COVID-19感染後の標準的推移

COVID-19感染後の標準的推移2020/04/07
出典:Katri Manninen

トランプ氏検査陽性後の時系列(合衆国東部時間)

 トランプ氏が発症したのは、9月30日ないし10月1日と推測されていますが、医師の診断によるものではありません。トランプ氏は、10月2日未明に前日のPCR検査で陽性であったとツイートし全世界に速報が流れました。本人は、元気だと言っていましたが、この後しばらくの間、正式な情報発信は殆どありません。ここから時系列形式で記述します。全て合衆国東部時間(EST)です。日本時間(JST)は、13時間進んでいます。なお、多く報道されている内容であっても証拠が分からない物はその旨記します。 09/26(土)  ホワイトハウス・ローズガーデンおよび屋内での集会、式典でウィルスに暴露、感染したものと思われる。 09/30 (水)  トランプ氏は、ミネソタ遊説中に発症した疑いがある。 10/01(木)  この日の朝、ニュージャージへ出発する前にトランプ氏ほか限られたホワイトハウス首脳は、ホープ・ヒックス氏の発病とPCR検査陽性を知っていた。ニュージャージーへの随行員のうち数人が急遽出発取りやめとなった。  トランプ氏は、ニュージャージーからの帰路の機中またはその後のホワイトハウスでの会議中に発症した疑いがある。  夕方以降にPCR検査検体採取 10/02(金)  1時前に大統領夫妻が検査陽性であったとトランプ氏ツイート。  これ以前の最後の検査陰性はいつだったかは公表されていない。そもそもいつ、どの程度の頻度で検査をしていたのかの情報が開示されていない。  朝遅く、高熱を出し血中酸素濃度が急激に下がり98%→93%となったので酸素補給を開始した。酸素濃度は95%に回復した*。 〈*10/4医師団ブリーフィングによる〉  モノクローナル抗体カクテル療法開始。  トランプ氏は入院を拒んだが、呼吸困難と血中酸素濃度の低下を生じ酸素補給を行ったので入院に同意したと報じられた。  自分で歩けるうちにヘリに搭乗することにしたという情報があるが、証拠はない。  この日、ウォルター・リード合衆国軍医療センターへ入院するまでの間、ホワイトハウスから有用な情報は、殆ど発せられていない。  18:15頃、トランプ氏は、自ら歩いてヘリに乗り込み、ウォルター・リード合衆国軍医療センターへ移動、そのまま入院した* 〈*Transcripts of the situation room 2020/10/02(EST) CNN 〉  この日の夜、レムデシビルの点滴(1日1回5日で1セット)が開始された。 10/03(土)  この日も血中酸素濃度が下がり98%→92%?となったので酸素補給を開始した。酸素濃度は95%に回復した*。発熱はなく元気になり歩き回っていた。 〈*10/4医師団ブリーフィングによる〉  正午前に主治医のショーン・コンリー氏ら、医師団によるブリーフィングが行われたが中身はなかった。悪くは無い、回復に向かっているという説明のみで一方的にブリーフィングを打ち切った。  医師団ブリーフィングの直後、ホワイトハウスのマーク・メドウズ大統領首席補佐官が匿名で、「過去24時間、大変に憂慮される状態で、この先48時間が山」とリーク。酸素補給などの実施も明かされた。 〈*Trump tests positive:White House sows confusion about Trump’s condition as source tells reporters next 48 hours will be critical 2020/10/03 CNN/発信者はマーク・メドウズ大統領首席補佐官であった〉  メドウズ首席補佐官の発言後、それに反論するかのように院内からのトランプ氏によるビデオメッセージが発信された*。 〈*トランプ米大統領、病院から動画メッセージ 「段々と調子が良くなっている」 2020/10/04(JST) BBC  3日の夜になると、ホワイトハウスと医師団の秘密主義とそれによる情報の矛盾は、厳しい批判を浴びることとなった*。 〈*This is serious’: What Trump’s officials said about his condition 2020/20/03 Anderson Cooper 360°10/4(日)  マーク・メドウズ大統領首席補佐官のリークによるNew York Timesの記事*によりトランプ氏は激怒し、怒鳴り散らしたと伝えられた 〈*Trump’s Covid-19 Symptoms Are Said to Be ‘Very Concerning’ 2020/10/03 The New York Times〉  ここまでに入院後二回目の血中酸素濃度低下が発生した。血中酸素濃度については、80%の低い方ではないなどと説明されたが、詳細不明。酸素補給が行われたかも不明。医師団は、ステロイド剤であるデキサメタゾンの投与を開始。  正午前に主治医のショーン・コンリー海軍軍医官・中佐ら、医師団による二度目のブリーフィングが行われた*が、前日と全く異なる説明且つ、ごまかしも多く、マーク・メドウズ大統領首席補佐官によるリークとも矛盾が目立った。 〈*Transcripts of CNN RELIABLE SOURCES 2020/10/04 CNNTranscripts of STATE OF THE UNION 2020/10/04 CNN〉  結果、前の晩から強く批判されていたコンリー医師は、「不誠実」な「嘘つき」とメディアから酷評されることになった*。本邦と異なり、合衆国でこれは致命的。 〈*CNN医療報道部長・医師のサンジェイ・グプタ医学博士は、コンリー医師に同情的で弁護している。筆者もこの点は、ホワイトハウスのガバナンス不在に医師団が巻き込まれたと考えている。そもそも40歳の海軍軍医官・中佐に合衆国大統領の医療情報の政治的特異性など手に負えるわけがない。/コンリー医師(海軍軍医官・中佐)は、いわゆる医学博士(M.D.)ではなく、オステオパシー医師・博士(D.O.)である。オステオパシーは、合衆国の伝統的医療から発達したもので、身体の自然回復能力を重視する思想に立脚している。現実には合衆国においてオステオパシーは、現代医学と基本思想以外はあまり変わりがなく、医療高等教育も確立している。本邦でうっかり者が陥る整体術や整骨術、トンデモ医療と揶揄する向きは誤りである。但し、基本思想の違いがコンリー医師の言動に影響しているのではないかと筆者は考えている〉  ブリーフィングで、二度目の酸素補給と投薬の処方(後述)などが発表された。トランプ大統領は熱もなく*元気であり、月曜日(10/5)には、退院を目指していると主治医の発言があった 〈*解熱剤によって熱が下がったのかなど一切説明無し〉  トランプ氏の肺の所見などに質問が集中したが、医師団は回答を拒否した*。 〈*医師団の情報開示拒否は、人権上、医療倫理上は当たり前のことだが、大統領の場合、誠実且つ透明に市民へ情報提供せねばならない。しかしその判断は医師の手には余り、ホワイトハウス内の権限を持つ者が決済することである。トランプ政権ではこのホワイトハウスのガバナンスが全くなり立っていない〉  トランプ氏が本当に10/5(月)に退院できるのかに関心が集まったが、この日の17:30頃、トランプ氏は、大統領専用SUVに乗り込み、ウォルター・リード合衆国軍医療センターの周囲を一周ドライブした*。集まっていた支持者はサプライズに狂喜し、トランプ氏もたいへんに満足げだった。しかしこれはCDCのガイドラインである隔離に完全に反しており、シークレットサービス二名の生命を危険にさらし、14日間の検疫に追い込むものであるため厳しい批判を浴びた。何故かBBCよる批判は最も早く厳しいものであった。 〈*トランプ大統領、車で病院外に姿見せる 主治医は報告を修正CNN 2020/10/05(JST)Transcripts of THE SITUATION ROOM CNN 2020/10/0410/5(月)  この日も正午頃に医師団による三回目のブリーフィングが行われ、トランプ氏は順調に回復しており、退院の判断は夕方までに行われると発表された*。 〈*Trump to be discharged, but ‘might not be entirely out of the woods 2020/10/05 STAT〉  18:30頃、トランプ氏は、ウォルター・リード合衆国軍医療センターを退院し、ホワイトハウスに戻った*。 〈*トランプ氏が退院、「20年前より調子がいい」と回復アピール 治療は継続 2020/10/06(JST) BBC〉  トランプ氏は、バルコニーから演説するパフォーマンスを行ったが、そこでマスクを外し、以後マスクを外した状態がしばしば見られるようになった。リテイクまでして撮影したビデオでは、トランプ氏は一見たいへんに元気に見えたが、実際には通常使わない筋肉を総動員して呼吸していることが素人目にも明らかで、深刻な呼吸器疾患を抱えていることは明らかだった。筆者には、気の毒で辛くて見ていられない映像となった*。 〈*トランプ氏の呼吸が本邦で言う「努力呼吸」” effort ventilation”の教科書的症例であることを指摘する医師によるツイート 10/06(火)  トランプ氏は、オーヴァルオフィスと西翼に移ったという憶測が流れたが、この日は東翼(居住区)にいた。  トランプ氏は、選挙戦への復帰(遊説の再開)を希望しているが、治癒していない、感染力の残る人間が遊説を希望することに批判が集まっている*。当たり前だが、トランプ氏は、仮に一切の治療を行わないとしても医療施設で厳重に隔離されねばならない状況である。 〈*Trump Covid: President downplays virus on leaving hospital 2020/10/06 BBC〉  その後の AP*ほか、FOX News、CNNによる報道では、トランプ氏は、10月10日土曜日にホワイトハウス、12 日月曜日にフロリダで大規模集会を開催し、選挙活動を開催する予定である。 *Trump restarting campaign with White House, Florida events 2020/10/10(JST) AP 10/7(水)  この日からトランプ氏は、オーヴァルオフィス*に戻り、大統領としての執務を再開した。ホワイトハウス職員は、大統領と接触する際にはCOVID-19病棟の医療従事者と同様の個人防護具(PPE)で完全防護している**。 〈*ホワイトハウス西翼(2020/10/12 14:30 当初「中央」とありましたが、オーヴァルオフィスは西翼にあるため訂正しました)にある大統領執務室のこと。東側は居住区画となっており、西側は行政区画となっている。本館は手狭なため、それぞれコロナードと言われる渡り廊下で別棟につながっている〉 〈**Trump returns to Oval Office despite isolation rules, infection risks 2020/10/08 ABC10/8(木)  バイデン氏との第二回大統領選候補者TV討論会について、実行委員会は、トランプ氏がCOVID-19発症者であり、治癒していないことから遠隔会議形式を提案した。トランプ氏は拒否し、その場合不参加と表明した*。その 後第二回TV討論会は、中止と決定した。第三回TV討論会については未定である。 〈*Trump says he won’t participate in next debate after commission announces it will be virtual 2020/10/08 CNN
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ゴージャスで危険な処方と大統領の奇行
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