輸送効率で犠牲にされるドライバーの居住空間。「人権なきトラック」ショートキャブの問題点

ショートキャブ車内。荷物は休息ごとに座席の上に移動させ、シートも前にずらしている

「ショートキャブ」は長距離ドライバーに嫌われている!?

「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。  前々回前回では、トラックの車内にカセットコンロ、冷蔵庫、電子レンジなどを置いているドライバーがいることや、それらで作る「トラック飯」について紹介したが、今回と次回はトラックドライバーにとって大切な生活空間である「キャビン」について話していこうと思う。  今回は、そこから「長距離ドライバーがショートキャブ*を嫌う理由」について紹介したい。〈*トラックの居住空間が最も小さな形式のトラック〉  トラックの車体のうち、ドライバーが運転する部分を「キャビン」という。分かりやすくトラックの形を「亀」に例えると、いわゆる「頭」の部分に当たる場所だ。  このキャビンは、トラックドライバーの「仕事空間」であるのはもちろん、1週間、中には1か月以上家に帰れないこともある長距離トラックドライバーにとっては、毎日の「生活空間」にもなる。  だからこそ、長距離を走るトラックのキャビンには、前回までに紹介したような風呂セットや調理道具などの生活用品が数多く積まれているのだ。

長距離トラックなのに寝台がついていないという地獄

 また、こちらも前回までに紹介した通り、長距離トラックのキャビンは、運転席後部に大人1人が寝転がれるベッドスペース(寝台)が付いている「フルキャブ」と呼ばれるタイプがほとんどで、ドライバーは1日の業務を終えると、この寝台で睡眠を取っている。  仕事中の居眠りが「上司からの叱責」や「減給」だけでは済まない彼らトラックドライバーにとって、質のいい睡眠や休息がどれほど大事なものかは、ドライバーでなくとも想像に難くないはずだ。  本来ならば、こんな「暑い・狭い・うるさい」に翻弄されることのない宿泊施設でしっかりと体を休ませたいところだが、残念ながらトラックドライバーが気軽に泊まれる施設は日本に充実しておらず、彼らは結局大型車が停められる駐車場や、出来る限り邪魔にならない路上スペースを探して車中泊をする。  そんな窮屈な車内生活を送る長距離トラックドライバーだが、実は現在のトラックには、彼らにとってこの環境以上に過酷なタイプのキャビンが存在する。それが「ショートキャブ」と呼ばれているトラックなのだが、なんとこれには「寝台」が付いていない。積載量は多く、輸送効率はいいので荷主や会社にとってはいいが、その分客室の機能が削られているわけだ。  それゆえ長距離を走るドライバーたちからは、 「人権なきトラック」 「ベッドレスのショートキャブほど乗りたくないクルマはない」 「寝台を設置しないというのは、ドライバーに寝るなと言いたいのか」 「ショートキャブで長距離走らせる運送業者には絶対に転職しない」 「もし今の会社がこのトラック買ったらすぐに会社を辞める」 「日本のトラックは荷主や会社、輸送コストの事しか考えておらず、ドライバーの身体の事は無視」 といった声が頻繁に聞こえてくるのだ。  現在このショートキャブで長距離を走っているという、ある30代の路線ドライバーは、 「寝るたびに狭いスペースにベッドを作らなければならない。手間だけでなく、毎度の設置で素材もヘタりやすくなるためベッドの土台が安定しなくなり、斜めになった状態で寝ることになるため、色々工夫しなければならない」 と話す。  寝台のスペースは、先述のような生活用品を置くためのスペースにもなる。が、ショートキャブの場合、それができなくなるため、生活の質、ひいては労働の質もが落ちてしまう。  毎度寝るたびに荷物を大移動させ、運転席・助手席のシートを前にずらし、「斜め」にならないよう緩衝材を出し入れして微調整する。肉体労働で体力が疲弊している彼らにとって、この作業ほど無駄な肉体労働はない。
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やむなく坂道に駐車して車体ごと斜めにして休むドライバーも
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