レディオヘッド、カニエが流れるプレイリスト・ムービー『WAVES/ウェイブス』が映画館で観るべき作品である5つの理由

©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

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 7月10日より、映画『WAVES/ウェイブス』が公開されている。  初めに告げておくと、本作は間違いなく「映画館で観るべき」作品だ。その理由および、作品の唯一無二とも言える魅力について、詳細を記していこう。

1:豪華アーティストたちによる“プレイリスト・ムービー”

 本作には“主役”とも呼べる存在がある。それは、豪華アーティストたちによる音楽だ。レディオヘッド、カニエ・ウェスト、フランク・オーシャン、エイミー・ワインハウス、ケンドリック・ラマーなど、洋楽に明るくない日本人でも知っている名前がズラリ。劇中で使われている楽曲の総数は31曲にものぼっている。  しかも、単に豪華アーティストを集結させただけではない。トレイ・エドワード・シュルツ監督は前もって映画のためのプレイリストを作成しておき、脚本はそのプレイリストの楽曲を当てはめながら執筆、時には楽曲の歌詞そのものを脚本に書き込んでいたのだという。
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 つまりは、もともと“楽曲ありき”のスタイルで制作が行われていたのだ。楽曲の権利を購入するための交渉は簡単ではなかったようで、撮影中にも交渉を進めるしかなく、すべての楽曲の権利の取得には1年をかけたのだという。  本編を観れば、これらの楽曲が物語と不可分であることがわかるだろう。その曲調は登場人物の感情に寄り添うように聞こえ、時にはその歌詞がセリフのように登場人物の心の声を伝えているかのようなのだから。これらの特徴はミュージカルにも近いが、登場人物が歌って踊ったりするわけではない。だからこそ、新たに“プレイリスト・ムービー”というジャンルが銘打たれてるのだ。  また、豪華アーティストの楽曲以外のBGMを、『ソーシャル・ネットワーク』(2010)でアカデミー賞作曲賞を受賞し、ナイン・インチ・ネイルズのリーダーとしてグラミー賞も受賞したトレント・レズナーが手がけている。劇中の効果音やセリフをもサンプリングした、ユニークかつ重圧なサウンドにもこだわりを存分に感じられるだろう。

2:ジェットコースターのようなカメラワークの意図とは

 もう1つ、本作で誰もが圧倒されるであろうことは、独創的なカメラワークだ。何しろ、狭い車内で360度回転したり、建物の中を一気に駆け抜けたりしているのだから。特に冒頭7分間の縦横無尽にカメラが動く様には、ジェットコースターに乗ったかのような感覚さえ覚えた。  もちろん、観客を驚かせるという短絡的な理由で、このカメラワークになっているわけではない。冒頭ではとてつもなく勢いがあったカメラワークが、いつしか主人公の男子高校生の心理に寄り添うかのように側についていたり、ある場所に向かうまでの彼を静かに追っていたりするのだから。大胆であったり、時には繊細にも見えるというカメラワークの“緩急”が、物語をよりドラマティックに仕立てている、というわけだ。
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 さらに、赤や青といったヴィヴィッドな色調の画も、非常に美しいものとなっている。この美しさそのものに、残酷ではあるが、同時に愛情にも溢れた世界を包み込むような優しさをも感じるのだ。    また、カメラワークだけでなく、“画面の幅”も主人公の心情を表している。序盤に彼が青春を謳歌している時の画面の幅は広いのだが、彼の状況が悪くなると幅が狭まっていくのである。  こうした画作りによる心理表現は、言うまでもなく映画という媒体でしか成し得ないもの。前述した豪華アーティストによる楽曲も相乗効果となり、物語をさらにエモーショナルに盛り上げてくれる。  この新しくも、映画という媒体の根幹を成す映像と音による貴重な体験を与えてくれる『WAVES/ウェイブス』は、やはり画面に集中でき、楽曲を全身で感じることができる映画館でこそ、観るべき作品なのだ。
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愛ゆえの悲劇を描いた物語
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