Black Lives Matterを理解するための映画10選。黒人への理不尽な暴力や迫害はなぜ起きるのか?

Black Lives Matter

(Photo by Natasha Moustache/Getty Images)

 2020年5月25日、ミネソタ州ミネアポリス近郊で、黒人男性が白人警官に首を膝で押さえつけられ、窒息死する事件が発生。この事件を発端とし、アメリカのみならず世界中で“Black Lives Matter”を掲げた抗議デモが進行していった。  “Black Lives Matter”は黒人への人種差別や暴力の撤廃を求め、同時にその命や生活の価値の重さを訴える、2013年ごろにもSNS上で広まっていた言葉だ。残念ながら、黒人が理不尽な暴力や迫害を受けて死亡し、抗議デモに発展、さらに破壊行動や略奪行為までもが横行するという事態は、これまでも歴史上、何度も繰り返されてきたことでもある。  ここでは、そこに至るまでの人々の心理や、悪しき人種差別の構造が描かれた、“Black Lives Matter”をより理解するための映画10作品を紹介していこう。いずれも、「黒人への理不尽な暴力や迫害はなぜ起きるのか?」の疑問への答えを提示した、人種差別になじみのない日本人でもわかりやすい、登場人物へ大いに感情移入もできる、優れた作品だ。

1:『デトロイト』(2017)

デトロイト 1967年に実際に起こった暴動と、その最中に起きた白人警官による黒人たちへの不当な尋問を描く物語だ。当時の暴動が起きていた街の空気が見事に再現され、実際の事件に向かうまでの“そうなるしかなかった”状況もリアルに描かれている。気が遠くなるほどしつこく続く尋問シーンは緊張感と圧迫感に満ち満ちており、良い意味で最悪な気分にさせてくれるはずだ。  本作で主人公である民間警備員を演じたのは、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』などでも知られる俳優ジョン・ボイエガ。彼は今回の“Black Lives Matter”のデモに自らのキャリアを投げ出す覚悟で参加し、涙ながらに力強いスピーチを実施。その姿は世界中の人から支持を集め、『スター・ウォーズ』の公式Twitterも彼を応援した。『デトロイト』の劇中で彼が扮するキャラクターとも、その姿は重なって見えるだろう。

2:『ドゥ・ザ・ライトシング』(1990)

ドゥ・ザ・ライトシング 舞台はブルックリン、その年一番の猛暑の日。ピザ屋での些細な口論がきっかけとなり、やがて取り返しのつかない事件が発生するまでを追った物語である。その街では黒人のみならず韓国人やイタリア人など多様な人種が暮らしており、それぞれがお互いに偏見や不満を持っていることがわかっていく。大半は“普通の人の日常”を淡々と追っているので退屈に感じてしまうかもしれないが、「その全てが終盤に起こる事件につながっている」と考えると、緊張感をもって観られるだろう。  誠実なのは、被差別者である黒人側の問題にもしっかり向き合っていること。彼らは相手を黙らせる自己正当化の手段として「差別だ!」という言葉をむやみに使ったり、時には犯罪に当たるような迷惑行為や、八つ当たりのような行為にまで及んでいたりもすることに対し、黒人の立場から真摯に向き合っているのだ。人種差別があると思考停止し、短絡的で独善的な言動をしてしまう人間に対し、まさにタイトル通りに「Do The Right Thing(正しいことをしろ)」と訴える内容なのだ。

3:『フルートベール駅で』(2013)

フルートベール駅で 2009年の元旦、サンフランシスコのフルートベール駅のホームで、22歳の黒人青年が無抵抗のまま白人警官に射殺されてしまったという、実際の事件を題材とした作品だ。明日の日銭を気にしつつ、時には恋人に文句を言い、かわいい子どもには無償の愛を注ぐ……そんな、どこにでもいる青年の“最期の1日”を慈しむように描いていた。  何よりも切ないのは、主人公が決して褒められたような人間ではなく、そのことを彼も自覚して「変わりたい」と思っていたことだ。言うまでもなく、死んでしまっては、その願いは果たされることはない。それをもって、テレビの報道では知り得ない、複雑な心境を持つ人間の姿を“追体験”できることだろう。なお、監督のライアン・クーグラーと、主演のマイケル・B・ジョーダンは、後にスーパーヒーロー映画『ブラックパンサー』(2018)でもタッグを組んでいる。
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『ビールストリートの恋人たち』
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