「異物混入」騒動に見る、過熱報道の鮮度と商品を殺す人々

日本マクドナルドホームページ

日本マクドナルドホームページより

「異物混入」騒動が斜め上の方向に展開している。ペヤングカップ焼きそばの虫混入騒動に始まり、マクドナルドでチキンマックナゲットにビニール片、チーズバーガーに発泡スチロール、ポテトに歯……。さらには18日に19歳の少年の逮捕という形で解決を見た「つまようじ混入少年」事件。この事件では、たかが一人の少年の売名手段として、“混入動画”が使われた。裏を返せば、このタイミングでの「異物混入」はそれほどレバレッジが効く――つまり「小さな努力で大きな効果を生む」(大辞林)コンテンツだったということだ。  特定の問題について社会的関心が大きくなると、メディアは一斉に右向け右となる。理由は視聴者、読者、ユーザーに「売れる」からだ。当然ながら各メディアは一歩でも他社よりも先んじようとするが、スクープ報道などそうゴロゴロ転がっているわけがない。となると「神は細部に宿る」とばかりに、メディアは些細な事例まで追いかけるようになる。  今回「つまようじ」事件が起きるタイミング直前のマクドナルド報道などは、まさにそのステージに差し掛かったところだった。メディアもそうそうバカではない。視聴者の飽きは察知している。しかし代わりのネタがないから、目の前のネタを消費し尽くす(≒数字が取れなくなる)まで、報道し続ける。  記憶に新しいところでは一昨年の2013年10月末、表沙汰になった阪神阪急ホテルズを発端とする食品偽装事件が挙げられる。この問題発覚以降、各地のホテルで偽装が発覚した。各ホテルの食品偽装や食品表示のミスが明らかになるとともに、報道は「食品偽装」一色に塗りつぶされた。ただただ頭を下げる事業者と、声を荒げる記者という構図を日常的に見かけるようになった。  メディアは「我々は視聴者(読者)の代弁者だ」とばかりに切り込んだが、だからといって、あげつらうような問い詰め方が許されるわけではない。ソーシャルメディアやネット上からはメディアに対する批判の声も聞こえてきた。最盛時のTwitterのタイムラインにはさまざまな感情が入り混じって発露された。「マスゴミ、何様だ!」という発言者の後に「偽装ばかりして」「もう何も信じられない!」というコメントも並んだ。  それでも2014年になると食品偽装報道は落ち着きを取り戻し、ソーシャルメディアのタイムラインからも「偽装」を口にする人は減った。「人の噂も75日」。年明けの1月5日は、発端となった阪神阪急ホテルズの食品偽装発覚から75日が経過した頃だった。  食品偽装が発覚してからちょうど1年後の2014年10月24日、政府は不当表示をした事業者に課徴金を科す制度を盛り込んだ景品表示法改正案を閣議決定した。商品やサービスが、誤解を与える表示を行った場合などに、不当表示で得た売上高の3%にあたる課徴金を科すというものだ。  年初なら1面トップの扱いとなる法改正だったろう。だが報道は間近に迫る解散総選挙一色だった。審議は1年前の喧騒がウソのような静けさのなか、11月11日には衆議院を通過。19日には参議院本会議で可決された。この改正景品表示法は2016年春にも施行される見通しだ。  今回の混入騒動の発端を「ペヤング」だとすると騒動が起きた昨年12月2日の75日後は今年の2月15日。混入騒動は顧客層の幅広いマクドナルドで拡大し、「つまようじ少年」にスライドしたことで(よほど新たな燃料が投下されない限り)終息に向かうだろう。人は同じネタが続くと飽きる。  それにしても、だ。行いが悪かったのは言わずもがなだが、「ネタ化」という意味で「つまようじ少年」のやり口は、“炎上系ブロガー”を思わせるイマドキのものだった。「善悪」という概念を超えて、純粋に拡散性を追求していたように見える。19歳ならば、物心つく頃にはもうmixiなどのSNSも世に登場していたはずだ。日常のなかでネタを選定し、注目を浴びる快感をさまざまな形で覚えていたのか、TwitterやYouTubeなどでどう訴えかけたら反応を最大化できるかという「ネタ化」――ユーザーの気持ちをひっかくのがうまかった。  対応に追われる企業側が現在キャッチアップできていないのが、この「ネタ化」だ。これまでクレーマーの対応は一対一が基本だったが、クレームが入るよりも先にソーシャルに発信されることが増えた。クレーム対応は「対社会」「対ソーシャル」で考えなければならなくなった。誠実な対応でクレーマーの対応に当たるのは当然であり、その上で「上から目線」の社会――ソーシャルにも好感を持って迎えられなければならなくなった。当然そこには人的なコストがかかる。  無自覚にソーシャルにネタを投下する人たちが、商品やサービスを殺す。一昔前、地域の飲食店で異物混入に直面したら、常連客はその異物をそっと脇に置き、小声で店主に耳打ちした。それは店に対する気遣いでもあるが、自分が通う店を守るための自衛行動でもあった。好んで食べているものの瑕疵を、大声で衆目にさらす。その行動がリスク管理のコストを生じさせ、結果、低下したサービスやコスト高にまたクレームをつける。「ウケるかどうか」のみに偏ったリテラシーをエネルギー源に“正義”を振りかざす。その姿は、あまりにも幼い。 <文/松浦達也> まつうら・たつや/東京都生まれ。編集者/ライター。「食」ジャンルでは「食べる」「つくる」「ひもとく」を標榜するフードアクティビストとして、テレビ、ラジオなどで食のトレンドやニュース解説を行うほか、『dancyu』などの料理・グルメ誌から一般誌、ニュースサイトまで幅広く執筆、編集に携わる。著書に『家で肉食を極める! 肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』(マガジンハウス)ほか、参加する調理ユニット「給食系男子」名義で企画・構成も手がけた『家メシ道場』『家呑み道場』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)はシリーズ10万部を突破
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