コロナ中退2割の衝撃。バイト収入ゼロで大学生が大ピンチ!

大学の講義室イメージ

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 新型コロナウイルスの感染拡大により、全国に緊急事態が宣言されて1か月余り。多くの業種が休業要請に応じ、企業もテレワークに切り替えた。だが、アルバイト収入を失った大学生は、かつてないほど困窮していた……

国の支援は焼け石に水?学費減額運動が全国に拡大

 新型コロナウイルスの影響で退学を検討している学生が20.3%――。  4月29日、学生団体「高等教育無償化プロジェクトFREE」が公表したアンケート結果(全国119の大学、短大、専門学校などの学生514人が回答)は衝撃的なものだった。  コロナの感染拡大とともに自粛ムードが広がり始め、飲食店の客は激減した。4月7日、首都圏や大阪府など7都府県に緊急事態宣言が発出。学生バイトの最大の受け皿である飲食店の多くが休業要請に応じ、大学生を直撃した。  大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は、「コロナ中退」2割の調査結果をこう読み解いた。 「学生が1か月以上も収入を絶やす一方、大学の休校は長期化し、オンライン授業は慣れない教員も多く混乱が生じている。2割という数字は、学生が生活と学業両面で不安を抱えている証しでしょう」  東京の私大3年生の大村安孝さん(仮名・21歳)も突然、苦境に立たされた一人だ。 「バイトしているレストランが緊急事態宣言で休業になり、月8万円ほどの収入がいきなりほぼゼロに……。慌ててほかのバイトを探したけど、募集が少なく難航してます。宣言が解除になっても、店には簡単にはお客さんが戻らないだろうし、人を減らすという噂もある。大学に相談すると、無利子の奨学金を紹介されましたが、すでに奨学金を借りているし、借金を増やしたくない。まったく先が見えず、どうせ事実上の休校なんだから休学も考えたけど、奨学金が止まってしまうし、復学できなくなりそうでちょっと怖いですね。下に弟が2人いるので、親にも頼れません。バイトの賄い飯がなくなったのが痛い。食費もかさむので一日2食に減らし、もやし炒めとパスタばかり食べてます」  大学生を経済苦に追いやっている最大の原因は、高額の学費だ。授業料は国公立大で約53万円、私立大で平均約90万円にも上る。  こうした状況を受けて、学生による「#学費減額運動」が全国100大学以上に広がっている。大学側は、4月16日に就実大学が支援金3万円の一律給付を決め、21日に明治学院大も一律5万円の給付を発表。多くの大学が後に続いた。早稲田大が「生活困窮」との条件付きながら10万円給付を発表すると、大々的に報じられた。 「ただ、学費減額には応じないでしょう。少子化で大学経営は厳しいといわれるが、実は、財務は良好です。実際、’00年以降、経営難で廃校になったのは15校なのに対して、大学の総数は133校も増えており、早稲田大のように敷地内に星付きホテルが建つ学校さえある。それでも、学費減額を拒むのは学校経営が危うくなるからではなく、前例をつくりたくないからでしょうね」(石渡氏)

国の学生緊急支援策給付に高いハードル

 学費減額運動が勢いを強めるにつれ、メディアの報道が増えると政府が重い腰を上げた。5月19日、政府は最大20万円の「学生支援緊急給付金」支給を決めたのだ。  苦しむ学生にとって、一筋の光明となるのか。首都圏の私大4年生の佐藤梨乃さん(仮名・22歳)は、硬い表情を崩さない……。 「親と折り合いが悪く、大学入学を機に一人暮らし。学費も生活費もすべて自分で賄ってます。貸与型の奨学金が月4万円出るけど全然足りないので、残りは居酒屋とカラオケスナック、それに歯科事務のかけ持ちでギリギリしのいでいる。ところが、緊急事態宣言で居酒屋とスナックは休業。歯科事務もシフトが減って……居酒屋のバイト代を家賃に充てていたので、退去がちらつきました。でも、居酒屋のマスターが『店を開けてくれたら、売り上げの一定額以上稼いだ分は持っていっていい』と言ってくれて、助かりました。居酒屋は夜8時以降もひっそり“闇営業”で開けています。“自粛警察”がうるさいけど、私にすれば感謝しかない。地方上級心理職を目指してるのですが、延期になった採用試験の日程もわからず、勉強していても不安ばかり。国の支援金10万円も、親の世帯から抜けていない私はもらえないみたいですし」  国の支援金は多くの条件をすべて満たさないと、支給されないのだ。ブラックバイトユニオンの渡辺寛人代表が、問題点を指摘する。 「20万円をもらったところで、大学を去る学生は出てくるでしょう。つまり、現金を給付しても、学生生活を送る権利が保障されるとは限らない。学業面では学費の減免や支払い猶予、生活面では家賃を補助するため、住居確保給付金制度の対象に学生を含めたり、現行制度の拡大が必要です」
コロナ中退2割の衝撃

5月19日、一律学費半額を求めるアクションなどの学生団体は、国の支援策を「対象者が狭く、予算規模も救済に見合うものではない」と批判 写真/朝日新聞社

 困っているのは学生だけではない。大卒で院生志望の森康介さん(仮名・23歳)は、大学独自の給付金はもちろん、公的な支援の網からもこぼれ落ちてしまった……。 「院の学費を貯めるために個別指導塾でバイトしていたのですが、緊急事態宣言が出て4月いっぱい休校になった。学費の貯金を取り崩して生活費に回さなくてはならず、教室長に休業補償が出るか聞くと、『行政の要請による休校対応なので、法的に補償の義務があるとは言い切れない』『社労士、弁護士、労基署にも確認した』と相手にしてくれない……。大学院進学に狂いが生じそうで困ってます」  森さんに限らず、休業補償を拒まれた学生は多い。「学生だから」と拒否されたケースさえある。 「学生やアルバイトでも、休業補償を得る権利はあります。労働基準法26条により、使用者の都合で労働者を休業させた場合、休業手当(平均賃金の6割)を支払わなければならない。また、国の雇用調整助成金は、企業が休業手当を支払えば、補助を受けられます」(渡辺氏)  学生バイトは、飲食店や学習塾では貴重な戦力として重宝されている。だが、非常時には真っ先に切り捨てられる存在なのだ……。
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学生は甘えてなんかいない!
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