「コロナで脱ハンコ」の流れは、15分に1頭のペースで殺されるゾウを救えるか

象牙目当てに、15分に1頭のゾウが殺され続けている

密輸象牙

大阪で摘発された大量の密輸象牙(2006年)。写真提供/トラ・ゾウ保護基金

 新型コロナウイルス感染防止で、にわかに加速し始めた行政機関や企業の「脱ハンコ」の流れ。「書類への押印のための出勤」が在宅勤務のネックとなり、働く人々のリスクにもなる――。  かねてから、その非効率性が指摘されていた日本の“ハンコ文化”に対し、政府も重い腰を上げた。規制改革推進会議で4月28日、押印による行政手続きや民間契約を減らすための議論が始まったのだ。  こうしたハンコ文化の見直しで救済されるのは、役所や企業の職員だけではない。実は、アフリカやアジアのゾウたちこそ、「脱ハンコ」の恩恵を受けることになるのかも知れない。  近年、アフリカでは象牙目当ての密猟で15分に1頭のペースでゾウたちが殺され続け、このままでは10年もたたないうちにアフリカゾウは絶滅してしまうと見られている。こうしたゾウたちの危機に大きくかかわっているのが、日本のハンコ文化なのだ。

日本の象牙取引規制は「抜け道」だらけ

アフリカゾウイメージ 認定NPO法人「トラ・ゾウ保護基金」事務局長、坂元雅行弁護士は「高級印材としての象牙の需要が、ゾウたちを脅かし続けている」と指摘する。  現在、象牙はワシントン条約によって国際取引が禁じられている。象牙の違法売買の世界最大の市場であった中国でも、国内取引が禁止された。だが日本では象牙の国内取引が今なお合法であるなど、世界の流れから逆行している。 「印鑑を扱う業界が、官僚と結託して象牙の国内取引の禁止に抵抗しているからです。日本ほど、国内市場で堂々と象牙が売買されている国は他にありません」(坂元弁護士)  象牙の国内流通を禁止しない日本政府の言い分は、「国内で流通している象牙は、ワシントン条約で国際取引が禁止された1990年以前の在庫であり、密猟象牙は日本にはほとんど入ってきていない。したがって日本国内市場での象牙売買と野生のゾウ密猟とは無関係」というものだ。  しかし、坂元弁護士は「日本での象牙の管理には、大きな抜け穴がある」と言う。 「国内で象牙を売買するには『1990年以前の象牙である』という科学的な年代測定結果を添えて環境省指定の機関に申請し、登録を受ける必要があります。しかし書面審査であるため、申請者が(専門業者に依頼して)測定を受けた象牙と、登録しようとしている象牙が同一かどうかを確かめることができません。  そのため、虚偽の申告で登録されるおそれが相当あるとみるべきです。そもそも、象牙の登録制度は全形を保持した象牙のみが登録対象で、分割された牙や、印鑑・アクセサリーなど加工された象牙は登録の対象外となっています。この点から、国内外の専門家やNGOから『抜け穴』だと批判され続けています」(坂元弁護士)
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日本の象牙利用の約8割を占めるハンコ業界
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