「アーティストは声をあげろ」。社会にコミットするのは当たり前のことだ<Kダブシャイン氏>

Kダブシャイン氏

Kダブシャイン氏

なぜKダブシャインは「星野さん側にも問題がある」と言ったのか?

 コロナ禍で自宅待機や自粛が「要請」される中、アーティストたちはさまざまな手法で人々の気持ちを和らげるべく、動画などでコラボやセッションを呼びかけるという現象が起きた。  その1人が、歌手で俳優の星野源さん。彼が、「うちで踊ろう」という動画をネットで公開し、「誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」と呼び掛けたところ、芸能人やミュージシャン、一般人が次々とコラボ動画を作り、多くの反響を呼んだ。  これにあさましくも便乗したのが、安倍総理である。安倍総理は、星野氏の演奏に合わせて、ソファで寛ぎ、紅茶を優雅に口にして、犬と遊ぶ動画を公開し、外出自粛を呼びかけたのである。  当然、総理大臣としてやるべき課題が山積みの中、国民の日常生活とかけ離れた動画をアップしたことに対して批判が殺到することになった。  今日21日発売の『月刊日本 6月号』では、この騒動の中、「星野さん側にも問題がある」と指摘して物議を呼んだラッパーのKダブシャインさん(以下、Kダブ)を直撃。その真意を聞いている。  海外のアーティストが積極的に政治的なメッセージを発信し、ファンもそれを受容する文化が確立する中、検察庁法改正案についての反対運動に声をあげただけで、アーティストにクソリプが寄せられる今の日本社会。そんな日本社会において、アーテストは「政治的発言」とどう付き合うべきなのか?

社会にコミットしない日本のアーティストたち

―― Kダブさんが星野さんの動画について「ちゃんと歌で政権批判しないから、こういう利用のされ方するんだよ。ポップシンガーの宿命」とツイートしたことが話題になりました。このツイートの真意を教えてください。 Kダブ:星野さんが「うちで踊ろう」というキャンペーンをやっていることは知っていましたが、あまり関心がありませんでした。ただ、安倍総理がそれを悪用し、あまりにも時代錯誤な動画をあげていたから、脊髄反射的にツイートしてしまいました。僕は星野さんのことは詳しくないから、星野さんに失礼してしまったところもあると思います。星野ファンが怒るのも無理はないと思っています。  だけど、仮に星野さんが普段から政治的な歌を出していれば、今回のようなことにはならなかったはずです。自分を批判しているアーティストとコラボしようとは、安倍総理も思わないでしょうからね。星野さんはもっと予防線を張っておくべきでした。その点について星野さんに哲学が感じられないのは、嘆かわしいというか、寂しいなと思います。  ただ、これは星野さんに限った話ではありません。日本には社会の中に自分を位置づけてメッセージを発信するアーティストが本当に少ないんです。私たちは社会の中で生きているのだから、社会で生じる問題は私たちの生活に直接的に関わってきます。安倍政権の新型コロナウイルス対策にしても、消費税増税にしてもそうですね。ところが、多くのアーティストはこうした問題に関して発言しようとしない。自分の思いを表現するのがアーティストの特権であるはずなのに、まるで何も起こっていないかのように振る舞っている。中立でいることが尊いかのように、あえて自己表現せずに、無機質な立場を選びたがる。  テレビに出ているタレントだってそう。有名大学出身でクイズ番組に出ている人たちは、みんな優れた頭脳を持っているのだから、いま起こっている問題について自分たちの考えを示すべきです。いま脳みそを使わずに、一体いつ使うのか。あなたたちの見解を聞きたいと、単純に思う。  日本では政治問題や社会問題の話をすると、すぐに「政治的」とか「社会派」と一括りにされてしまうから、それを嫌がっているのかもしれません。だけど、私たちはみな社会で生きている以上、誰もが社会派のはずです。日本が民主化してまだ数年しか経っていない国なら、社会へのコミット度が低いのも仕方ありませんが、世界第3位の経済大国で、表現者がこれほど社会にコミットしないのは異常です。  もちろんすべてのアーティストがそうだと言うつもりはありません。ロックでも、GLAYとかLUNA SEAのSUGIZOは、最近よく発言していますよね。彼らはロックとは何かということを体現しなければならないと思って、積極的に発信しているのだと思います。僕は彼らのことはすごく応援しています。
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勝ち取った「自由」への渇望が生む義憤
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月刊日本2020年6月号

【特集1】日本は「身分社会」になった
法政大学教授・水野和夫
評論家・佐高 信
帝京大学教授・小山俊樹

【特集2】新・「空気」の研究―コロナが暴いた日本の病理
著述家・物江 潤
ラッパー・Kダブシャイン
著述家・菅野 完

【特集3】検察庁法改正―これで国が壊れる!
衆議院議員・山尾志桜里
ノンフィクションライター・森 功