コロナ緊急事態宣言下で存続が危ぶまれるミニシアター。クラウド・ファンディングで集めた資金を分配する試み。

ミニシアター・エイド基金

ミニシアター・エイド基金

 新型コロナウイルスの拡大、またそれにともなう緊急事態宣言の発令は、文字通りあらゆる業界に影響をもたらすこととなった。映画界もけっして例外ではなく、外出自粛の影響でほとんどの映画館が休館に追い込まれている。  そして、その中でも多くの小規模映画館(ミニシアター)は、この状況がもう少し長引くことになれば、閉館にまで追い込まれる可能性が高い。ミニシアターを救うため、映画監督の深田晃司・濱口竜介両氏が発起人となり、クラウドファンディングで資金を集め、全国のミニシアターに分配する「ミニシアター・エイド基金」というプロジェクトを立ち上げた。1億円という目標を掲げたこのプロジェクトは、なんと開始から3日目の4月15日には目標を達成し、4月29日現在では実に2億円あまりの金額を集めている。  この背景には何があったのか、またコロナの騒動で前景化した映画界や教育問題が抱える問題点について深田晃司監督、濱口竜介監督にzoomでのオンラインインタビューを行った。

開始3日目での1億円達成

――まずは、(目標金額である)1億円のクラウドファンディング達成、おめでとうございます。 深田:ありがとうございます。驚きでしたね。正直、1億円は大変だと思ってました。ミニシアターがなくなって欲しくないと思っている人がこれだけいるんだと、可視化できたのは大きな収穫ですし、僕たちも勇気をもらったように思います。
深田晃司監督

深田晃司監督

濱口:僕も同じ気持ちです。もともと、首都圏だけでも1万人、全国だったらさらに1万人、映画館に通い詰めるようなコアな映画ファンがいるとはまことしやかに言われていたので、そこに届いていけば1億円という額は目標としては決して高くはないと思っていましたが、それにしてもそのスピードにはびっくりしました。そして、実際コアな映画ファンと言うよりは、かつてミニシアターで映画を見た人、今は必ずしも映画館に行けていない人たちがバッと動いたという印象です。  何が作用したのかなと考えると、もともと、(ミニシアター救済を目的とした別のプロジェクトである)「SAVE the CINEMA」の署名活動が大きかったと思います。最終的には66000筆以上の署名を集め、各省庁に要望を提出しましたけど、それは広報としての役割、つまり映画界が立たされている危機を知らしめる役割も大きくて、いわば「SAVE the CINEMA」のまいた種を、芽吹いたと言えるのかもしれません。 ――しかし、これで終わりではありませんよね。濱口監督はDOMMUNEで行われた先日の記者会見で、1億円を達成したとして1劇場に割り振られるのは150万円くらいになるけど(会見が行われた4月13日当時。現在は支援対象の劇場もより増えているため、より1劇場当たりの配分も少なくなっている)、それでも1ヶ月の運営費になるかどうか、といったことをおっしゃられていました。 濱口:そうですね。さほど大きくない映画館でもちょっと厳しいと思います。1億円というのはあくまで「何とか集まりそう」という予測に照らし合わせての設定だったので、今個々の劇場にヒアリングをしていますけど、「(150万円では)まったく足りない」という声も多いです。もっとくれということではなく、単に現実の問題としてそうなのだと。 深田:それは僕も実感しています。たとえば2億円が集まったとすれば、単純計算で1劇場あたりやっと200万くらいで、決して十分ではありません。ただ、クラウドファンディングが終了するまでに、とにかく少しでも多くの支援を集められればと思っています。

ミニシアターから多くの大物監督が生まれた

――ミニシアターのもつ意義につきまして。ミニシアターは、多くの映画監督にとっての原点であると思います。 深田:僕が最初に監督した作品は、2001年に自主制作した『椅子』という作品です。友人に見せたりはしていたんですけど、ぴあフィルムフェスティバルにも落選してしまって、なかなか上映の機会がありませんでした。そんな中、2004年に渋谷のアップリンクさんに声をかけられ上映の機会を得ました。1日3回で1週間の上映で、なかには観客数0という回もあったんですけど(笑)、無名の新人にこんな機会を与えてくれるんだと、驚きでした。 濱口:実際、ミニシアターでの上映から、多くの新人監督が発掘されていますし、こうした場があることで、デビューのチャンスが担保されているんですよね。 深田:ただ、逆に言えば、世間一般の認識として、ミニシアターはあくまで「登竜門」に過ぎないと思われている節はあると思います。まずはミニシアターで経験をつけて、シネコンであらゆる老若男女に見られるようになると言いますか。そうではなく、ミニシアターを主戦場にして、大規模なマーケティングの場からこぼれ落ちるような作品づくりを選ぶ作家たちがいることは、ここで強調しておきたいと思います。
濱口竜介監督

濱口竜介監督

――ミニシアターと言っても、一概に「こういうものだ」とは言えません。旧作を流す名画座もあり、新作のインディペンデント作品を上映する劇場もあり、また流される作品の傾向にしても、それぞれ千差万別です。 濱口:そうですね。だからこそ、そうした個性を発信する必要がある。現在、個々の劇場の館主に話を聞く取り組みを始めています。それぞれの方がどのような価値観を持っており、どのように映画を発信しているのか。これを広めていくことで、そうしたミニシアターの多様性を認知させていきたいと思います。 深田:ミニシアターは個々の「顔」が見えるんですよね。なかなかシネコンでは難しい。「顔」が見えるかどうかという点では、劇場と映画製作は似ているかも知れません。日本の映画プロデューサーって大手映画会社の社員が多いんです。もちろん彼ら一人ひとりには異なった個性がありますが、制作の過程ではどうしても、「個」が埋没した組織の顔になってくる瞬間がある。一方でフリーのよりインディペンデントなプロデューサーの方がよりその人の個性と向き合いながらの映画製作になりますが、作品が興行的に失敗した場合の補償がなく、安定した収益が望めないため、生計を立てることに苦労している人が多い。その対比はミニシアターとシネコンの関係性に重なります。
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前景化する映画界の問題
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