コロナ対策で休校していることへの救済策も議題に。大学入試のあり方に関する検討会議、5回目が開催
2020年4月14日に「第5回大学入試のあり方に関する検討会議」が開催されました。新型コロナウィルスの影響を受け、文科省の会議室には萩生田光一大臣と三島良直座長(東京工業大前学長・名誉教授)がいるだけで、他の委員はネットを経由して参加する会議となりました。また、外部の傍聴者向けにはライブ配信の中継がされ、中継の視聴者は260人前後でした。
毎回、3~4名の委員が発表されていますが、今回は、島田康行委員(筑波大学)、荒瀬克己委員(関西国際大学基盤教育機構)、斎木尚子委員(公益財団法人日本ラグビーフットボール協会)、末冨芳委員(日本大学)の4名が発表されました。
この「大学入試のあり方に関する検討会議」は昨年の12月に共通テストの国語と数学の記述式の中止あるいは延期の決定を受けて、「もう一度まっさらな状態から」(萩生田大臣)議論し直すことが出発点ですが、英語の民間試験、国語と数学の記述式のあり方だけでなく、大学入試全般とその周辺にも議論の対象が拡大して来ました。
もちろん、大学入試はいろいろな要素が複雑に絡み合いますから、一つの案件を話していても関連事項として話題が広がっていくことは理解できます。また、様々な専門の方が参加されていることによって、いろいろな方向から検討できるという良い面があります。事実、熱心な委員からは詳しい資料も提出され、専門分野を活かした発表をされています。
しかし、その一方で、複数の委員で議論できる「コアな共通部分」は少ない印象もあります。であるとすれば、議論できる部分は一般論や抽象的な内容になりがちです。そして、各論になったときは、提案者のテーマに対し、提案者以外の方は反論ができずにただ認められて通過する形になる可能性もあります。
例えば、今回の会議で国語の記述式については、島田委員がやや踏み込んだ意見を述べられましたが、数学の記述式については、これまで踏み込んだ話はありません。例えば、この場に高校数学を知る人がいたとして「高校数学では、数式のみを書かせる記述式の問題は、うまく作らないと答が多様化する。逆に多様化を意識して、答の種類が少ないものを作ろうとすると書かせる意味がない」、「高校数学の記述式では、場合分けを含む問題を出さなければ意味がない」、あるいはもっと過激な提案をしても、それに「待った」をかける人がいなくすべて通過してしまいそうな感じも受けます。すなわち、各方面から集められた個性のある委員が、専門性を活かした発言をするものの、「言いっぱなし」になっているものが少なくないので、今後の展開がどのようになるかに注目です。
島田康行委員(筑波大学)
【概要】共通テストの国語の記述式に関して踏み込んだ分析をされた。
【発表趣旨】主に国語の記述式問題についての問題点が示された。思考力・判断力・表現力を測ろうとして導入されたものの、採点などを考慮して条件付記述式にしたことで作問のねらいが限定的となり、大きな目標にはせまり切れなかった。東北大学の調査によると、高校教員には国語の記述式問題は肯定的に受け止められていたが、さらなる具体的な情報の求めがあり、それに応じるための時間がなかった。スケジュールに無理があったのではないか。また、採点システムについても、採点ミスが発生した時の対応・救済策が不明であったことがさらなる不安・不信につながった。共通テストの枠組みではやはり困難である。また記述式以外についても、国語の大問構成がこれまでのままでよいのか見直すべきである。
荒瀬克己委員(関西国際大学基盤教育機構)
【概要】高大接続システム会議の委員であったことから、うまくいかなかった理由と反省の弁を述べた。
【発表趣旨】高大システム改革会議の最終報告では、大学入試が小中高校教育に大きな影響を与えていることから、高校教育と大学教育を一体的に改革するとしたことが重要であった。新学習指導要領の改訂に合わせた2025年の入試がポイントになるはずであったが、2021年の入試を目標にするというように早められたことで、時間の問題で十分に議論することができなかった「恨み」がある。共通テストは二次試験と組み合わせて用いる前提であったので、資格試験のような段階別成績表示でよいと考えていた。すべての高校生に意味のあるような教育改革として、できるだけ早くしかし十分に検討されたものを届けなければいけない。
島田委員、荒瀬委員の発表に対する質疑応答
2人の委員の発表が終わったところで、発表内容についての質疑応答がされました。
(1)末冨委員「時間の問題があったのに、なぜ止まれなかったのか?」
⇒島田委員「いくつかの課題があったのに、時間の問題で次の会議へ先送りするだけになってしまったと考える」
⇒荒瀬委員「高大接続特別部会、高大接続システム改革会議、検討準備グループと3つの会議にわたっていく中で、合教科の設問、複数日程の実施など、実施が困難だとしていろいろなものがなくなっていき、最後に残ったのが2つだった。共通テストは資格試験でいいと思っていたし、段階別評価の導入を望んでいたので、当時はその2つなら実施可能だと思っていた。今は実施できないことがわかり、十分に理解できていなかったことを反省している」
(2)川嶋委員「大学入試センターの役割はどうあるべきか?」
⇒荒瀬委員「英語4技能の評価も記述式の採点もセンターができればよかった。そのために人と金が注がれることが大事である。」
⇒吉田委員「荒瀬委員の意見に同調する。指導要領が改訂される2024年までは現状のセンター試験のままでやって、その間にセンターでできるのかどうか検討すればよかった」
(3)渡辺委員「入試に力を持たせて、高校教育に影響を与えるやり方は健全ではない」
次に、残りの2人の委員が発表されました。
斎木尚子委員(公益財団法人日本ラグビーフットボール協会)
【概要】大学入試に関する問題点を広範囲から指摘。
【発表趣旨】大学入試が多様化してきていることを踏まえた議論が必要である。高校生の学習の在り方は大学入試が一定の影響を与えている。強調しすぎるのはよくないが無視することはできない。これから議論していくべき4つの論点(共通テストの位置づけ、個別テストとの役割分担、公正・公平の担保、個性を活かした多様な選抜方法)を提案する。その議論のためには現状を示すさらに詳しいデータを提供してほしい。
末冨芳委員(日本大学)
【概要】主張したい内容が多かったようで、用意された資料も多く、持ち時間を大幅に超えて発表された。大学入試を「公共性」の視点から触れた。
【発表趣旨】この会議で何を論じ、何を改善すべきなのかわからないまま進んでいるので、総論の柱建てが必要だと考え、整理して提案する。これまでの議論では遵守すべき原理原則(公共性)が後退し、エビデンスとなるデータの用い方が不十分なまま、達成すべき価値だけが肥大化してしまった。現在の教育制度は格差生成装置となっている。大学入試の「公共性」を原則として6つの柱についての検討・検証が必要である。
斎木委員、末冨委員の発表に対する質疑応答
前半の2人の委員発表と同じように、後半2人の委員の発表に対し質疑応答がされました。
(1)小林委員「記述式入試の現状に関するデータは、私立大学だけでなく国立大学も含めて考えるべきなので、文科省が主導で集めてほしい」
(2)両角委員「各大学だけでなく、受験産業や高校生の現状など、エビデンスとして様々なデータを集めてから議論した方がよい」
(3)芝井委員「課題が大きくすぐに解答を導くのが難しいと感じた。大きな枠組みの共有と目の前の現実的な課題とをどんな風にマッチングするのか?」
(4)末冨委員「大学入試がいかにあるべきか、これまでと同じことを繰り返さないためにどうすべきか、ということが「公共性」という言葉にこめた意味である」
(5)芝井委員「定員割れをしている大学もある中で、推薦入学制度では学力テストなどの選抜をしていないケースが多くある。共通テストの改善だけでは解決できない」
(6)清水委員「令和2年中という会議の時間制約の中でどこまでの課題にチャレンジすべきなのか?イギリス型のシステムの実効性はどこまであるのか?」
⇒末冨委員「原理・原則の在り方の確認をすべき。」
この会議の特徴と今後の方向性
4名の委員の発表内容
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