世界中の国が新型コロナ禍で国民救済の経済政策を打ち出す中、中身もなければ規模も小さく、タイミングも遅い日本の経済対策の愚

2月末の新橋

Ryuji / PIXTA(ピクスタ)

2ヶ月前から激変した世界

 新型コロナウィルス が世界中で猛威を振るってる。  WHO(世界保健機関)が1月末に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と認めてからもう2か月。3月11日にはパンデミックと認めた。世界的大流行である。私たちは1月中頃から中国の交通の要衝、武漢での都市封鎖、経済活動の事実上の停止などをメディアを通して目撃した。さらに1月の終わりには、クルーズ船・ダイヤモンドプリンセス号での発症と船内隔離の問題も起きたため、新型ウイルス問題は、事実上の日本の国内問題となった。  あまりにも事態が急速に変化していくので、当時のことはもう多くの人が忘れているかもしれない。覚えておられるだろうか? 今やほぼ国中がロックダウン状態になっているイングランドから2月20日前後に聞こえてきたのは、ロンドン市長選の有力候補が東京が2020年夏のオリンピックを行うのが難しければロンドンで行う用意があるという発言をしたのだ。その後、現職のロンドン市長までが2020年の夏のオリンピックをロンドンで行うことに賛意を示した。なんという余裕だろう。さらに、3月末現在、世界最悪の死者数を出しているイタリアは首相が、イタリアの防疫体制は十分なので国境閉鎖などはしないとわざわざ宣言までしていた。2月の中ごろまでヨーロッパにとって新型コロナウィルス 問題は中国や日本という極東の国々の問題でヨーロッパとは無縁のものと考えていたのだ。  しかし、事態は急変する。3月に入り、ヨーロッパが感染拡大の中心地となり、この原稿を書いている3月末現在でイタリアでの死者数は中国での死者数の2倍以上になっている。スペインでも中国の死者数を超えた。スイスでも人口850万人ほどの国家であるにも関わらず感染者数は1万人を越す事態となっている。全世界の感染者数は50万人を大きく超えて収束の見通しは立っていない。  新型コロナウィルス は遠いアジアの問題で国内問題に波及しないと考えていた国々はウィルスの国内流入を簡単に許してしまったのだ。感染拡大も同様だ。政治家も官僚も事態の推移に驚いただろう。そして、感染は国民の命に関わる問題であると同時に、どの国にとっても経済に対する打撃は甚大だ。

迅速だった対コロナ経済対策。ただし、日本以外

 しかし、感染が国内問題になってから、2週間もしないうちに、ヨーロッパ各国は具体的な経済対策を打ち出した。そして、不自由な生活を強いる国民や経済活動の事実上のストップで利益は吹っ飛び、資金繰りにさえ困る企業、特に中小企業に対しても大枠の救済プランが発表された。主な国の対策を紹介すると次のようなものがある。    例えば、イギリスはコロナ対策自体は後手後手となってしまったが、経済対策は早かった。企業に勤める労働者で休業を余儀なくされるものには、月額2500ポンド(約32万5000円)を上限にして賃金の8割まで支給するとした。さらに特筆されることは、自営業者に対しても同じように支給することだ。過去3年間の平均から計算し8割まで(月額2500ポンド)とした。フランスも同様の暮らしを破壊されない所得保障が決定されている。他には、税金や社会保険料、公共料金、中には家賃に関しても、支払いを猶予するなどの広範な支援策が盛り込まれている国が多い。  3月の末には感染の中心地の一つとなったアメリカ。新型コロナウイルス対策に関しては、トランプ大統領の姿勢や政策に対して異論も多いが議会では経済支援に関して早急に一致した。その背景にはアメリカで史上最悪の失業者が生まれたことがある。1週間で何と300万人以上の失業保険の給付申請があったのだ。これまでの記録は60万人程度だったので、その数字は衝撃を持って伝えられた。さらに、この300万人には、申請書類の事務処理が終わってないものが加わる可能性もあるので確定値ではさらに増えるのではないかとも言われる。  これを受けて議会では2兆ドル(約220兆円)のコロナ対策の特別予算を組んだ。個人への給付、医療機関への援助、中小企業や特に打撃の強い産業への支援などが盛り込まれるが、これでも不足しているのではないかという議員も多い。  このうち個人の給付内容には年収7万5000ドル(年収825万円)以下の場合では一律1200ドル(13万2000円)、年収が7万5000ドルから9万9000ドルの層にも援助される。また、子供1人につき500ドル(5万5000円)の追加給付が実施されると報じられている。失業給付は13週間延長され、1週間につき600ドル(6万6000円)増額するとした。アメリカ経済と個人の生活を守るため、議会では今回も与党・共和党と民主党が一時激しく対立したが、当初の予算規模を2倍にして、お互いの意見を取り入れ妥協し予想以上に速やかに議会を通過させた。  これに対して我が国はどうだろう。新型コロナウィルス 問題が事実上の国内問題になったのは1月の下旬である。2月から外食や観光などを中心に目に見えるように業績が落ち、多くの人が解雇されたり、労働時間を大幅に減らされている。とくに非正規労働者の打撃はひどく、家賃が払えない状況に陥っている。また大手企業の正規社員でもテレワークとした自宅勤務になったため、それまでの残業代が無くなり手取りが大幅に減ったと嘆く人も少なくない。2月27日には安倍首相が高校まで全国の学校で一斉休校を要請し、2週間程度のイベントの自粛も求めた。  この1ー2週間が極めて重要な時期と訴えたのだ。これに対し多くの国民も応え、ライブイベントや展覧会も多くが休演、休止し、アミューズメントパークも閉鎖。国民の多くも活動を自粛した。その自粛の期限がきた3月12日以降も、状況が一気に良くなるわけがない。そのためイベント自粛の延長を要請したり、専門家委員会からは、オーバーシュート=感染爆発の可能性や都市封鎖の可能性が伝えられた。また、知事が感染拡大を阻止するために自宅待機、都市間の移動制限などの自粛を要請もした。しかし、明らかに国民の対応には変化が生まれた。6500人もの動員があったアリーナでのスポーツイベントは県知事の再三の要請にも関わらず強行された。週末には多くの人が出歩くようになった。特に例年になく早まった桜の開花とともに国民の意識は明らかに緩んでしまったのだ。  その後も東京五輪の延期が決まった直後の3月23日に、東京都の小池知事が東京でのオーバーシュートや都市閉鎖=ロックダウンの可能性もあるとした。続けざまに25日には28日からの週末には外出を自粛するように呼びかけ、平日も自宅勤務をできるだけしてほしい、夜間の外出はしないでほしいと求め、4月12日までのイベント自粛を強く要請した。
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粛々と自粛しそうな日本人がなぜ今回「緩んで」いるのか?
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