理不尽すぎる収容。罪なき夫を人質にし、家族全員の帰国を狙う。理不尽で血の通わない入管の行政処分

入管は何か問題が起こると「厳格化」を打ち出す

「入管問題とは何か」セミナー

木下さんが主催した「入管問題とは何か」セミナー。予約制だったが、すぐに満席となった

 昨年末、元ニッサン会長のカルロス・ゴーン氏の海外逃亡が大ニュースとなった。「ゴーンは卑怯だ」「日本の司法制度にも問題がある」などさまざまな情報が流れる中、2019年3月末に18年間勤務した入管を辞めた市民団体「入管問題救援センター」の木下洋一代表(55歳)は以下のコメントをフェイスブックに寄せていた(要約)。 「入管が今回の件に乗じて、出国手続の厳格化みたいなことを言い出したら要注意です。入管は何か問題が起こると、何かと『厳格化』を打ち出します。他人に厳しく自らにはとことん甘い入管の打ち出す厳格化が成功した試しなどなく、むしろ、混乱の上にさらなる混乱を招き、事態を悪化させるばかりです」  木下さんは、まさにその「厳格化」に違和感を覚えて入管を辞めたのだ。

木下さん「僕が知る限りで、もっとも理不尽なケース」

 2回目のセミナーの3日前の昨年11月15日。筆者は木下さんを連れて入管収容所の一つ「東日本入国管理センター」(茨城県牛久市)を訪ねた。というのは、木下さんは18年間入管職員として実態調査、上陸審査、そして横浜審判部門で働いたが、収容部門に携わったことはなく、実際の被収容者に会いたいと要望していたからだ。  木下さんにはぜひ会いたいと思っている人がいた。牛久にもう3年8か月も収容されている中国人男性Aさんだ。きっかけは、木下さんの活動をネットで知った、Aさんの中国人妻のBさんが木下さんにコンタクトをとり、Aさんについて話したことだった。木下さんは「僕が知る限りで、もっとも理不尽なケース」と言う。  Aさんは不法就労も不法滞在もしていなかった。日本では正式な在留資格で学問を学び、一般企業にも正社員として就職するなど、まじめに生きてきた。だが、妻Bさんが不法滞在をしていたことで、なぜかBさんは収容されず夫のAさんが収容されてしまったのだ。  筆者と木下さんは面会手続きを済ませると、アクリル板で隔てられた面会室に入った。しばらく待つと、短髪でこざっぱりとした服装に身を包み、健康的な体を有したAさんが現れた。 「できる限り体を動かすようにして、心身を健康に保っていますので」と朗らかに笑ったAさんだったが、彼が語ってくれた話はじつに理不尽なものだった。
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驚くほど理不尽なAさんのケース
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