『首都感染』(講談社)
コロナウィルスの伝染は広がり、ついに国内でも死者が出る事態になってしまった。
そして和歌山県や北海道などでも感染例が見つかり、もはや「中国の話」ではなくなってしまっている。このまま収束しなければ、東京五輪の開催にも影響が出る恐れが否定しきれない。
実は、今回の事態を約十年前に予測していたかのような小説を書いていた人物がいる。
『首都感染』(講談社文庫)の著者・高嶋哲夫氏である。
簡単にあらすじを紹介する。
20XX 年、中国W杯が開催され、中国代表が決勝まで勝ち進み国内外の盛り上がりは最高潮に達していた。日本代表も上位進出を果たし、日本国内も興奮の坩堝と化していた。
そんな大会の真っ最中に、中国の片田舎で致死率60%の大規模感染症(パンデミック)が発生する。
しかし、中国政府はW杯の盛り上がりを潰すわけにはいかず、ひたすら事態を隠ぺいする。もちろん、そんな隠ぺいが未来永劫続けられるはずがない。
ついに大会中止に追い込まれ、同時に全世界から集まっていたサポーターたちが帰国の途につき、一気にパンデミックが全世界規模のものとなり、日本でも死者が出る。首相は、パンデミックを抑えるために前代未聞の決断を迫られる--。
この設定が秀逸なのは、言うまでもなく
「W杯開催中」という点である。全世界から人が集まり、大会終了後(あるいは母国代表の敗退後)に帰国の途につき散っていく。パンデミックが一気に広がる条件がこれほど整っているタイミングは五輪とW杯だけだ。
実際、2022年に北京冬季五輪が決まっており、21世紀前半のうちのどこかで中国W杯が開催されることもほぼ確実である。不謹慎を承知で言うが、今回のコロナウィルスは「中国W杯」あるいは五輪に重なっていなかったのが不幸中の幸いという側面もあるのだ。
高嶋氏には、『首都感染』の他にも、
『東京大洪水』(集英社文庫)という作品もある。超大型台風が二つ重なったために都内の東三分の一が水没してしまう……台風19号で十分にありえたシナリオである。
全くの余談だが、筆者は19号が直撃したその日、手賀沼を目の前にする自宅が水没する恐怖に怯えながら『東京大洪水』を読みふけっていた。また、高嶋氏は3.11より以前に
『TSUNAMI』(集英社文庫)も執筆している。内容は言うまでもあるまい。
一度なら偶然かもしれないが、三回続くのは実力であり、必然である。
ということで、神戸市在住の高嶋氏に今回のコロナウィルスをどう見るか話を伺うことにした。