伊方原発3号炉差し止め仮処分決定、決定要旨を読み込んでみた

4県であった伊方原発運転差し止め訴訟

四国電力伊方発電所

四国電力伊方発電所 2019/04/13 撮影 牧田

 前回、年明け早々びっくりの伊方3号炉運転差し止め仮処分山口ルート*広島高裁決定について、その概要をご紹介しました。 〈*伊方発電所3号炉運転差し止めについては愛媛県、大分県、広島県、山口県の原告団からそれぞれ別個に訴訟が提起されている。筆者はこれをそれぞれ愛媛ルート、大分ルート、広島ルート、山口ルートと呼称している。  今回は各県における本訴と仮処分請求についてその状況を概説し、それぞれの仮処分申し立てについて比較します。

各県における本訴と仮処分申し立ての状況

 伊方発電所3号炉は、立地県である愛媛県だけでなく瀬戸内海と豊後水道を挟んで周囲を囲む大分県、広島県、山口県で運転差し止めの民事訴訟と仮処分申し立てをなされています。  このほかに高知県でも訴訟と仮処分の申し立てを行う話がありましたが、愛媛県訴訟団の支援をすると言うことで取りやめになっています。  県庁所在地と伊方発電所の距離は、図示するように愛媛県が北西約60km、大分県が西南西約70km、広島県が北約100km、山口県が北西約110kmとなっています。なお、高知県はちょうど西側の120km圏内となります。
伊方発電所からの等距離円10km刻み

伊方発電所からの等距離円10km刻み
防与諸島(ほうよしょとう)が60km圏内に入り、一部は30km圏内にある
国土地理院地形図より

伊方発電所の原子力対策重点区域

伊方発電所の原子力対策重点区域
上関町に属する防与諸島の一部がUPZに含まれ、24人20世帯となる。
原子力対策重点区域内の人口は、117,428人(2018/04/01)である
伊方地域の緊急時対応(全体版) 内閣府政策統括官(原子力防災担当) 伊方地域原子力防災協議会 より

それぞれの訴訟、仮処分申し立ては、脱原発弁護団全国連絡会のホームページにまとめられています。 ◆脱原発弁護団全国連絡会 : 全国脱原発訴訟一覧  ここで各県での訴訟の進行状況を列挙します。 1)愛媛県* 本訴2011/12/08起訴 松山地裁 係争中 次回第21回口頭弁論 仮処分2016/05/31申立 高松高裁2018/11/15棄却決定 * 伊方原発をとめる会 2)大分県* 本訴2016/09/28起訴 大分地裁 係争中 次回第15回口頭弁論 仮処分2016/06/24申立 福岡高裁 係争中(2018/05/24 地裁却下・即時抗告) *大分県民による伊方原発差止訴訟 3)広島県* 本訴2016/03/11起訴 広島地裁 係争中 次回第18回口頭弁論 仮処分2016/03/11申立 広島高裁 2018/09/25棄却決定 仮処分(新)2018/05/18申立 広島地裁2018/10/26却下決定 *伊方原発運転差止広島裁判  仮処分広島ルートは、広島高裁で2017/12/23に運転差し止め決定となり、その期間は2018/09/30迄であった。  2018/05/18に新たに2018/10/01以降の運転差し止め仮処分申し立てが行われた。  四国電力により決定に対する保全異議申し立てが行われ、2018/09/25に運転差し止めの棄却決定となった。  運転差し止めの延長を求めた仮処分(新)の申し立ては、2018/10/26に地裁却下決定となった。即時抗告は行われていない。 4)山口県* 本訴2017/12/27起訴 山口地裁岩国支部 係争中 次回第16回口頭弁論 仮処分2017/03/03申立 広島高裁 決定書交付2020/01/17差し止め決定 * 伊方原発をとめる山口裁判の会  仮処分は、2020/01/17に期限を本訴第一審判決言い渡しまでを期限として伊方発電所3号炉の運転を差し止める決定である。本記事執筆時点で四国電力は、保全異議申し立てをしていないが今回の決定について「極めて遺憾であり、到底承服できるものではない」とコメントし、決定文の詳細を確認の上、不服申し立ての手続きを行うとしている*。 〈*広島高裁、伊方原発運転差し止めの仮処分決定 四国電は不服申し立てへ2020/01/17 ロイター広島高等裁判所での抗告審における伊方発電所3号機運転差止仮処分の決定について 2020/01/17 四国電力〉  4県すべての差し止め訴訟は、いまだに地裁で第一審本訴係争中です。とくに愛媛県では、今年で9年目と「原発訴訟」でおなじみの10年訴訟の様相を見せており民事裁判の「審理迅速化」にはほど遠い状況です。前回解説したように仮処分は、原告側に大きな経済的、社会的リスクがありますが、このような長期化裁判における原告(債権者)の権利(債権)を保証する役割を持ちます。ただしそうであっても申し立てから地裁決定まで概ね2年かかっています。  4県における仮処分申し立ては、愛媛ルートと広島ルートで棄却決定、大分ルートで高裁係争中、山口ルートでは高裁決定後の四国電力の対応待ちという状況です。  仮処分の制度は、一般にあまり知られていませんので前回ご紹介した関口法律事務所による解説記事を再度ご紹介します。広島ルートでの伊方3号炉差し止め仮処分決定に関する記事ですので、今後の動きについてたいへんにわかりやすいです。解説にあるように最高裁では事実認定を行わず、違憲か否かの法判断を行いますので、基本的に高裁決定でおわりとなります。 ◆仮差押え・仮処分に関する不服申立手続について 即時抗告・保全異議・保全抗告とは2017/12/18関口法律事務所(再掲)
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「地震に対する安全評価」がまともになった今回決定
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