新宿駅で強制わいせつした男。結婚前提の恋人が涙の証言<裁判傍聴記・第2回>

新宿駅 性犯罪者と善良な市民の境界線はなんだろうか。それは、頭の中の妄想を行動に起こしてしまうのか否か。たとえば、電車のなかでムチっとしたお尻が目の前にあったとしよう。善良な市民であれば、つい目がいってしまったとしても、間違っても触れないように両手を上にあげて、時間をやり過ごすもの。しかし、なかには理性が効かない人もいるのだ。

裁判傍聴マニアと性犯罪裁判

 東京地方裁判所に向かう途中、法務省の前を通ると複数のカメラクルーが寒さに耐えながら、ひたすら誰かを待っている。この日は、東京地検特捜部が収賄容疑で秋元司議員を逮捕した当日。いつかこういった大きな事件の裁判も傍聴してみたいものだ。  裁判所に入り電子掲示板で本日の裁判一覧を見る。元犯罪者である知人によれば、「裁判傍聴で盛り上がるのはやはり殺人事件です」とのこと。しかし、殺人事件の裁判は毎日行われているわけではない。やはり、レアな事件の部類に入る。  それに比べ、詐欺事件の裁判は非常に多い。今日も日本のどこかで誰かが誰かを騙している。騙されていることに気が付いていないパターンもあるだろうし、「騙されました!」と一方的に騒いでいる人間が裁判を起こしているかもしれない。ただ、前出の知人によると、「詐欺の裁判は冗長でつまらない」とのことなので、無難に「強制わいせつ罪」の裁判が行われる法廷へ。  この強制わいせつ罪。電子掲示板ではよく見かけるし、レアな事件ではないようだが、法廷に入ってみると意外にも傍聴席はほぼ満席。裁判傍聴マニアにはいくつかのコミュニティがあるようで、性犯罪事件の裁判ばかりを好んで傍聴する「マニア」たちの姿もチラホラ。一同、静かに開廷を待っているのに対し、彼らは笑みを見せながら、仲間で集まり、井戸端会議を開いている。  傍から見れば、なんて悪趣味で性格の悪い連中なんだろうと思ってしまうが、人間やはりこういった生暖かいリアリティのある人の不幸話は好物なのだ。わたしも内心、どんな顔をした男がどんな性犯罪をしたのだろうと、被告人がやってくるのを待っているではないか。

夜の新宿で後ろから抱きつくキス

 検察官が被告人の男に対し、罪を追求する。当時の状況が映像となって浮かび上がるくらいこと細かに、男が犯した性犯罪を言語化していく。 「あなたは11月某日の深夜近く、ナンパをしようとJR新宿駅東口周辺を物色していた。目星を付けた女性の腕をつかみ、ルミネエストのエレベーター前まで無理やり連行した。そして耳元で『遊びに行こうよ』とささやいた。被害者は下を向いたまま『嫌です、帰りたいです』と何度も断った。あなたは後ろから抱きつき、片手で被害者の尻をわしづかみにし、再度、『いいから飲みに行こうよ』などと言いながらディープキスをしようとした。被害者は口を閉じて拒否をしていたため、結果的にディープキスでなく被害者の唇を舐め回すかたちになった」  傍聴席は満席。こんな醜態を見ず知らずの傍聴人たちに聞かれる気持ちといったらないだろう。さらにいうと、傍聴人の多くは、「強制わいせつ」に惹かれた半分冷やかし、半分好奇心の人たちだろう。しかし、傍聴席には目もくれず、男は真っ直ぐと前を見て、「間違いございません!」と宣言する。やけにすがすがしい。反省しているというよりも吹っ切れているような感じだ。  被害者は当時の事件を、「吐き気がするほど思い出したくない記憶」と形容し、心療内科にまで通うハメに。30万円ですでに示談が成立しており、ベタに執行猶予3年、という流れになるのだろうが、男の情状酌量を求めるべく、ひとりの女性が証言台に立った。
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結婚前提の恋人が証言台に立った
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