カンヌ最高賞の韓国映画「パラサイト」みどころ最速レビュー<ネタバレなし>

Los Angeles Premiere of "Parasite"

写真は2019年10月のLAプレミア上映で登壇するボン・ジュノ監督 (Photo by Michael Kovac/Getty Images for NEON)

 評論家や俳優ばかりだけではなく、数多の著名人たちが賛辞を惜しまない映画が、韓国で2019年に公開された「パラサイト 半地下の家族」である。韓国でのタイトルは「寄生虫」。アパートの半地下で暮らす貧しい家族が、豪邸に住む裕福な家族に寄生していく様を描く物語。ポン・ジュノ監督の7作目にあたる作品である。  本稿では「パラサイト 半地下の家族」の映画評ではなく、紹介をしたい。本作に関しては、監督であるポン・ジュノを始めとして、出演者や関係者らが口を揃えて「絶対にネタバレはやめて」と強いメッセージを発しており、だから本稿においても作品の内容には一切触れられないからだ。  本稿はPR記事ではない。映画を鑑賞したいち観客として、この不思議で重厚な映画体験を、ぜひ多くの人に映画館で味わってもらいたいとの思いでPCを開いた。そして少しでもその映画体験が良きものになるよう、鑑賞前のお奨めポイントを3つにまとめる。

悪人のいない悲劇、コメディアンのいない喜劇

【鑑賞前のポイント①-ジャンルに囚われない】  監督のポン・ジュノは、韓国のエンターテイメント専門誌「10アジア」の取材に、本作についてこのように答えている。  「この映画は、悪人のいない悲劇、コメディアンのいない喜劇」であると。本作を観た人たちの感想も様々で、コメディと評する人もいれば、韓国の貧困と格差問題を風刺した社会派映画であると評する人もいる。  またある人は、恐ろしいホラーであったとも言う。結論から言えば、すべて正解である。ポン・ジュノは本作において、「ジャンル」という境界線を、小学生の反復運動のように軽やかに行き来し、まさにジャンルを超えた複雑系悲喜劇を創り出した。

2019年カンヌ映画祭の審査委員長を務めたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは-

「寄生虫(パラサイト)、この映画は本当に特別な経験だった。予想が出来ない映画だった。私たちは鑑賞後、この映画が予想もしなかった手法で、様々なジャンルを混ぜ合わせ観客を惹きつけたミステリーについて話し合った。この映画は私たちに、我々の人生における重要なテーマを、ユーモラスに、しかし速断なく慎重な方法で伝達し、美しいハーモニーとともに本当の映画とは何であるのかという答えを示した映画である。またとてもローカルフィルムのような世界的映画でもあった。審査員たちは、この映画の結末に心を奪われた。時間が経つにつれその気持ちは大きくなり、そして満場一致の結論を下した」  と評し、カンヌ映画祭最高賞受賞の理由を説明した。  ちなみに昨年のカンヌ映画賞を受賞したのは是枝裕和監督の「万引き家族」であり、奇しくも、或る家族の貧困と格差社会が引き起こす切ない物語という点では多くの共通点を有するが、映画としてはまったくの別物である。  何よりもまずこの「パラサイト 半地下の家族」を観に行く人は、事前にこの映画は「○○のジャンル」という固定観念を外すことが大事だ。既存の枠組みに囚われず鑑賞する事を強く勧めたい。
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「半地下」は対北朝鮮、「インディアン」は対アメリカを象徴
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