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オリンピックイヤーとなる2020年。多くの観光客が訪れることが予想されるが、本項では彼らの足となる鉄道業界はいかなる課題を抱えているのか?
2019年は相次ぐ自然災害に悩まされた日本列島だが、鉄道業界も災害に苦しめられた1年だった。そして、今までは地元から大歓迎されていた新幹線やリニアも、「地元民の反発」が目立ち始めた年でもあった。
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新幹線やリニア建設を巡る自治体の反発
九州新幹線の長崎ルートでは佐賀県がフル規格での整備に反対の姿勢を鮮明にし、
中央リニア新幹線では静岡県の反対で同県内の工事だけが未だ着工できない状況に陥っている。
「ひと昔前であれば、こうした大型公共事業は歓迎されたはず。それが今では
直接的なメリットがなければ反対も辞さない自治体が出てきている点で、時代の移り変わりを感じます。九州新幹線では在来線特急でも博多へのアクセスに不便を感じていない佐賀県が、新幹線整備コストの負担を嫌っている。静岡はリニアのトンネル工事に伴う大井川の水量を巡る問題です。
いずれにしても、
“国益”をかざして地方を説得することは難しい。最終的には国が主導して現実的な落とし所を見つけるのでしょうが、自治体側にも応分の“メリット”を感じられるような対応をしなければならないでしょう」(鉄道ライター・境治氏)
◆相次ぐ踏切事故への対策は?
2019年9月5日、京急線が踏切に立ち往生していたトラックと衝突し脱線、トラックの運転手が死亡した。強引に踏切に進入したトラックに問題があるという見方があるいっぽうで、京急の高速運転や緊急ブレーキの対応に問題がなかったのかが問われることになった。
「もちろん今回の事故に関して原因を詳しく検証することは必要です。ただ、
根本的には踏切がなくならない以上こうした事故を撲滅することはできません。実際、京急の事故ほど大きなものでなくても、
立ち往生した車と電車が衝突する事故や、遮断機がおりてから踏切を横断しようとしている歩行者を撥ねる事故は相次いでいる。
鉄道会社は可能な限り踏切を廃止したい意向を持っているようですが、踏切の廃止は沿線住民の反発もあるので難しい。京急がいいとか悪いとかそういう議論に終始するのではなく、
運転本数が多い区間にある踏切の扱いを社会全体で真剣に考えていくべきでしょう」(同)
◆台風15・19号による被災
昨年、
鉄道に最も被害を与えた災害といえば、10月にたて続けに襲来した台風15号と19号。15号は千葉県内を中心に大きな被害を与え、19号は東日本全体に被害をもたらした。首都圏の通勤路線は計画運休もあって軽微な被害で済んだが、ローカル線は年末の今も不通区間が残る。
「とりわけ台風19号では、各社が早めに計画運休を告知したために混乱もなく、台風通過後も比較的スムーズに運転を再開することができました。ただ、事前の報道ではこうした首都圏の計画運休ばかりがとりあげられ、蓋を開ければ事前にはロクに報道されなかった
ローカル線に被害が集中した。施設が脆弱なローカル線が災害に弱いのはあるていど仕方ないのですが、お年寄りや学生などの交通弱者への影響は小さくありません。
この台風では北陸新幹線の車両基地が浸水したことも大きなニュースになりましたが、
復旧に向けた経営体力ではJRと地方の中小私鉄では雲泥の差があります。いつ起きてもおかしくない災害にローカル線がどう備えるか、
国の支援体制も含めて議論が必要です」
2019年の鉄道業界で話題になったのはこうした“被災”のニュースが多い印象がある。これらは2020年、改善すべき課題なのは言うまでもない。ひとたび大規模な災害がやってくると全てを吹き飛ばしてしまう。幸にして、今回の被災をきっかけに廃止される路線はなさそうだが、復旧に向けた工事はまだまだ緒についたばかりだ。