崩壊寸前の年金制度。将来不安をなくすために考え直すべき3つの課題とは?

年金崩壊イメージ

和尚 / PIXTA(ピクスタ)

7年の長期政権にも関わらず社会保障に真剣に取り組まない安倍政権

 日本の消費者、それも比較的裕福な世帯でさえもお金を使い消費を楽しむことができない理由。それは、将来、それも老後の生活設計に安心ができないからだ。だから、世論調査を行うと常に景気対策とともに、社会保障改革が国民の期待する政策としてトップ3にランクされる。  安倍内閣は、7年という憲政史上最長の在任期間を更新している。そして、そのほとんどの期間で衆参とも3分の2の議席を占めるという圧倒的な政治権力を保っている。しかし、国民が最も望む社会保障改革にはほとんど手をつけないどころか、福祉国家を維持するためにと2度にわたり消費税を上げた。庶民の生活には大きな打撃であったが、将来の社会保障、年金や福祉のためと思えば仕方がないと思う人も少なくなかった。  しかし、安倍内閣のいう年金制度改革は、現状の制度の大枠は維持しながら、給付は減らし支払う保険料は値上げするというだけのもの。つまり、数合わせであり微調整でしかない。権力の基盤がこれほど強固なのだから、残りの在任期間はぜひ大枠の改革に手をつけることを望みたい。  私は少なくとも、次の3点については考え直す必要があると思っている。 ・どんな所得でも同一な国民年金保険料によって、むしろ負担の逆転現象が起きてしまっていること ・多様な生き方への対応ができていない。 ・世代間扶助の非現実的な助け合いばかりに頼りすぎで、豊かな老人からそうでない老人への富の配分がなされない。

半数が払えない制度は「すでに崩壊している」

 このうち第一の点については前回すでに書かせてもらった。令和元年の国民年金の保険料は、毎月1万6410円。国民年金は一律の保険料のために、月収が20万未満の人にも、100万円以上ある人にも同じ保険料を払わせているのはおかしくないか?ということだ。そして、毎月払う国民年金の保険料は全額が社会保険料控除の対象になるので、所得税や住民税を多く払っている上位所得者は、毎年の確定申告によって、支払った年金保険料の多くが税金の還付によって、時には半額も戻ってくる。こうして、保険料の実質負担は半額くらいになるのに対し、一番苦しい低所得者は税金還付の恩恵はないので、満額払うというおかしな逆転現象が起きていることを紹介した。所得の高い人ほど安くなるのが、今の国民年金制度なのだ。多くの人が国民年金の負担に重圧感を感じているために、今や国民年金の支払いの一部免除や全額免除を受ける人が多数いる。第一号被保険者の加入者数1452万人(任意加入者のぞく)のうち、全額免除・猶予は574万人、一部免除などは40万人と合計614万人。第1号被保険者の42%を占めるほどになっている(平成30年度末現在)。  こうした制度を知らない人も含め、国民年金の保険料を払っていない未納者は他に138万人いる。給料から天引きで強制的に支払わされる人でないことを考え、この138万人も本来は第一号被保険者と考えると、合計約750万人、第一号被保険者全体の半数が払えない、払っていない制度になってしまっているのだ。半数が払えない制度ではすでに崩壊している制度と言っていい。  私は、改革の一つの柱として、社会保険料控除を廃止し、国民年金の保険料も所得に応じた金額に変更し、多くの国民が安心して保険料を支払い、支払える年金制度にすべきと思う。実は所得の低い人ほど、老後の備えを少しでもしたいと願っているはずなのだ。ただ、現在の収入と比較して、今の毎月の年金の保険料が高すぎるために払えないのだ。ちなみに、第2号、第3号被保険者も含めた公的年金加入者数は6745万人(平成30年度末現在)となっている。  問題はこれだけでない。
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時代遅れの価値観で生じる制度不良
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