安倍総理が答弁で口にした「シンクライアント」って何?

安倍参院本会議

12月2日、参院本会議で答弁する安倍首相。(参議院インターネット審議中継より)

突然飛び出した言葉「シンクライアント」

 12月2日に安倍晋三首相は、4月の「桜を見る会」の招待者名簿について、電子データの復元はできないと言った。そして、個々の端末でなくサーバでデータを保存するシンクライアント方式だから、と理由を語った(参照:日本経済新聞)。  4月のデータが12月に破棄されているのは、シンクライアント云々関係なく、運用の問題ではないだろうか。そもそも都合が悪いから破棄したのではないか。破棄が常態化しているように見えるのは、いったいどういうことなのか……。  そうした疑問がいろいろと湧いてくるのだが、それらはいったん脇に置いておき、シンクライアントの話をしたいと思う。およそITに詳しくないと思われる政治家から飛び出したこともあり、この言葉はネットでも話題になった。  そもそもシンクライアントとは何なのか。コンピューターの歴史を振り返りながら、確かめていこうと思う。

シンクライアントとは

 まず、シンクライアントは「thin client」と書く。thin には、薄い、少ないといった意味がある。シンクライアントには、方式がいくつかあるのだが、大きな枠組みとして言うならば、サーバーで処理をおこない、クライアント(手元のコンピュータ)には最小限のコンピュータ資源しか置かない方式を指す。  シンクライアントの一例を、利用シーンとともに書いてみよう。計算能力が高いサーバー端末があり、手元にはネットワーク機能と表示機能ぐらいしかない貧弱な端末がある。端末で操作をすると、その操作内容がサーバーに送られ、サーバーで処理がおこなわれ、端末に結果が表示される……。  シンクライアントには様々な方式があるので、上記は一例でしかない。ただ、サーバー側に高い負荷をかけて、クライアント側は安くて非力な端末で済ませる。そうしたイメージを持ってもらえば、大きな方向性としては間違っていないだろう。  そもそもなぜ、そうした方式が考案されたのか。理由を知るには、コンピューターの歴史をたどらないといけない。  黎明期の頃、コンピューターは非常に高価だった。そのため一人一台コンピューターを持つことは難しく、大型汎用コンピューターがあり、そこにぶら下がった端末で操作をするのが一般的だった。  この方式は、シンクライアントそのものなのだが、そもそも他の方式が考えられなかった時代なので、わざわざシンクライアントと呼ばれることはなかった。これは、現在「固定電話」と呼ばれているものが、当時ただの「電話」だったのと同じだ。その時期それは、ただのコンピューターだった。  シンクライアントという言葉の登場は、1996年頃になる。既にパーソナルコンピューターが普及を始め、一般的になりつつある時代だ。その時期に、Oracle 社がネットワークコンピュータ(NC)を発表した。NCは、クライアントにハードディスクなどの外部記憶装置を持たず、機能を限定してサーバー側で管理する方式になっていた(参照:コトバンク)。  なぜそうしたものを作ったのかと言うと、その方がトータルのコストが安くなると考えたからだ。しかし、コンピューターは驚くほどの速度で低価格化していった。そのため、この方式は広く普及することはなかった。シンクライアントは、コストの綱引きに負けたのだ。  この、一度負けたシンクライアントは、別の理由で求められるようになった。2005年に個人情報保護法が施行されるとともに、シンクライアントシステムは改めて注目されはじめた。情報を一元管理することで、流出を防ぐことができると考えられたからだ。官公庁が使うシンクライアントは、この文脈によるものだろう。  また、ほぼ同時期に、サーバー側で様々な計算をおこなう、クラウドコンピューティングの時代も始まっている。今では一般的になっているこの言葉は、2006年にグーグルの CEO だったエリック・シュミットが使い出したとされている(参照:コトバンク)。
次のページ 
本質は形式ではなく、都合の悪い記録を抹消することの常態化
1
2