コツメカワウソ
その姿や仕草のかわいさから人気が加熱するカワウソ。テレビやSNSのほか、近年はカワウソと触れ合えることを売りにした「カワウソカフェ」がいくつも営業、カワウソをペットとしている個人もいる。
だが、日本で主に取り引きされているコツメカワウソは、IUCN(国際自然保護連合)が「絶滅の恐れが高い」とする種(VU:危急種)であり、違法に入手されたものである可能性が高い。
今年8月、絶滅の恐れのある動植物の国際取り引きについてのルールを定める「ワシントン条約締約国会議」で、原則、国際取り引きが禁止されたほか、日本でも来月末に国内取り引きが規制される。カワウソたちが直面している状況について、違法取り引き問題を追うNGOに話を聞いた。
「コツメカワウソは、過去30年で個体数が急減しています。ただでさえ生息地である湿地や河川の開発や汚染で個体数が減少している中で、密輸のための捕獲がカワウソをさらに追い詰める恐れがあるのです」
そう語るのは、IUCNとWWF(世界自然保護基金)の共同事業で設立した野生生物の違法取り引きを調査・監視するNGO「TRAFFIC(トラフィック)」の浅川陽子プロジェクトマネージャー。
TRAFFICがまとめた調査報告書
「昨年10月に私たちがまとめた調査報告では、2016年から2017年にかけて、39頭のカワウソが税関で押収されるなど、日本向けのカワウソの密輸が急増していることが確認されました。
これらの事例では、まだ小さなカワウソの幼獣が鳴き声を出さないよう、睡眠薬で強制的に眠らせてバッグに詰めて密輸しようとするため、日本に持ち込むまでに半数が死んでいるということもありました。
密輸犯も『一定数死ぬのは、仕方ない』と織り込み済みで、幼獣を詰め込んでます。また、原産国であるタイやインドネシアなどでは、密猟者が幼獣を捕まえるために親のカワウソを殺してしまうケースも増えているようです」(浅川さん)
密輸されたカワウソが「合法な個体」として取り引きされてしまう!?
TRAFFICの調査/ 「WWFジャパン」ウェブサイトより
WWFなど自然保護団体の働きかけもあり、今年8月のワシントン条約締約国会議では、コツメカワウソやビロードカワウソは、学術研究を目的とした取り引きのみが許される「附属書Ⅰ」に再分類され、商業取り引きは禁止された。
だが、カワウソを守るためには、国際取り引きの規制のみならず、国内取り引きの規制強化が必要だ。来月末には、環境省により「種の保存法」の政令が改正された。コツメカワウソは「国際希少野生動植物種」に指定される見込みだが、密輸を防ぐには多くの課題がある。
浅川さんは「密輸されたカワウソが国内で『合法な個体』として取り引きされてしまう恐れがあります」と指摘する。
「例えば、すでに日本国内にはワシントン条約による国際商取り引きの原則禁止という規制以前に日本に輸入された個体や、その個体を繁殖させて新たに生まれた幼獣が取り引きされています。
そうした個体は、環境省への登録を行えば、例外的に取り引きが可能となります。規制前に輸入した個体は、規制日以前に国内で取得・輸入したことの証明が登録要件となっていますが、入手の合法性は必ずしも求められていません。
また、繁殖した個体についても、登録を受けた親から生まれた個体である必要がありますが、本当にその親からで生まれたカワウソなのか、それとも密輸されたカワウソなのかを判別することは難しいのです。
というのも、『繁殖』の証明ではDNA判定などを行わず、事実上『繁殖させた』とする業者の自己申告だからです。
中には、動愛法(動物の愛護及び管理に関する法律)に定められた生産地、つまりそのカワウソがどこから来たものなのかなどの表示すらしないコンプライアンス意識の低い業者もいます。そのため、密輸カワウソが紛れ込みやすいという問題もあります」(同)
これらの課題を解決するためにも、浅川さんは「国際希少野生動植物種の登録審査を厳格化し、合法に輸入された個体だけが登録できるようにすること、繁殖された個体についても、登録された親から生まれたことの科学的な証明を求める仕組みが必要」だと言う。