貧者の兵器。密かに広がる[自爆ドローン]の恐怖

 9月に起きたサウジアラビアの石油施設攻撃で一時、原油価格が2割も上昇するなど世界中が大混乱に陥った。だが、犯人は一機たった160万円のドローンだった!

数百万円のコストで兆円規模の損害に!

中国軍事用ドローン

10月1日、中国建国記念日の軍事パレードで披露された最新鋭の軍事用ドローン 写真/CCTV

 サウジアラビアの国営石油企業の石油施設を、18機の“自爆ドローン”と7発の巡航ミサイルが襲ったのは9月14日のこと。今回の攻撃による被害額は3.3兆円以上と試算されたが、これは東京五輪開催による経済効果(’13~’20年)とほぼ同額となり、それが一瞬にして吹き飛んだ形だ。さらに驚かされるのは、攻撃に使われたドローン一機あたりの価格がわずか160万円だったという事実だろう。金額だけを比べると恐ろしい費用対効果である。  今、このような低予算で対象に大きな被害を加えることができる自爆ドローンは新たな“貧者の核兵器”とも呼ばれ、関連事件も増加傾向にある。ただ、自爆ドローンは米中露が鎬を削る軍事用ドローンとは異なる。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は言う。 「自爆ドローンは、資金が潤沢ではないテロリストや破壊工作員たちが使う武器で、国家が戦争時に用いる大規模兵器のような攻撃能力はない。同じような用途であれば、使い勝手が良い巡航ミサイルが本筋。しかし、それら兵器を手に入れられないテロリストや、資金のない小規模な武装集団などによって自爆ドローンが使われ始めているという実情があります」  軍事用ドローンは人間の遠隔操作で、偵察や攻撃を行って帰還するというタスクが主な任務だが、「爆薬を積んで敵地に突っ込む片道切符の自爆ドローンはあくまで邪道」(黒井氏)で、小規模な破壊工作に使われど、戦争の主流にはならないと指摘する。  一方、ドローン関連コンサルタントで、ドローン・ジャパン代表の春原久徳氏は、自爆ドローンが破壊工作に使われ始めた事情について技術面からこう分析する。

低価格なミサイルがつくられたというイメージ

「今回の石油施設襲撃に関しては、民生用ドローンの技術が生かされ、低価格なミサイルがつくられたというイメージです。ドローンのパーツのひとつにフライトコントローラーがあります。これは機体制御、自己位置推定、経路追従などを行い自律的な飛行を実現するための“脳”にあたりますが、価格が年々安くなっている。10年前に100万円だったものが、現在ではより高い性能のものが1万円以下で買えます。安価なミサイルにフライトコントローラーを組み込めば自律兵器の出来上がり。それが、民生用ドローンの技術がミサイルに使われたと表現するゆえんです」  なお、春原氏によると全地球測位システムの発達も自爆ドローンの普及に拍車をかけているという。近年、EUや中国も測位衛星を稼働させており、対応するチップさえ埋め込んでしまえば自律性をより正確に担保できるという。
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自爆攻撃を無効化する完全なシステムはない
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