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近年、ビール業界の大手4社(キリン・アサヒ・サッポロ・サントリー)はアルコール飲料の新ジャンル市場のシェアをとろうと、新商品の開発に注力している。新ジャンルとは「第3のビール」と呼ばれているもので、節約志向や消費トレンドの変化といった時代背景から注目が集まるアルコール飲料となっている。
そんな中、キリンビールの本麒麟は2018年3月に発売以来、3ヶ月で販売数が1億本を突破して大きな反響を呼んだ。キリンビールが出した過去10年間の商品の中でも、圧倒的な販売本数を誇る商品として大ヒットし、新ジャンル市場を席巻する勢いだ。
ビールの消費量自体は人口減少や、経済成長の鈍化などの要因から減少傾向にあるにも関わらず、本麒麟はなぜ多くの消費者のニーズを掴み、愛飲されるようになったのだろうか。また、時代の移り変わりに見る消費トレンドの動向はどのような変化が起こっているのか。
今回は、キリンビール株式会社マーケティング本部・ビールカテゴリー戦略担当の中村早織氏に、本麒麟が大ヒットした理由と最新の消費動向について話を伺った。
本麒麟が新ジャンル市場で好調な理由の1つに、20代から30代の若年層を取り込むことに成功した点だ。1度気に入ったものは、リピーターとして繰り返し購入する循環が生まれ、出荷本数の伸張に大きく貢献した。
従来、20代から30代の若年層は新商品が好きというインサイトがあり、まず手に取って試してみると考えられてきた。しかし、キリンビールが行なった「消費行動に関するアンケート調査」によると、新商品だからとすぐには買わず、周囲の評判を見てから買うようになってきているという。若年層の買い物意識が変化しているのだ。
これまで流行に敏感だとされてきた若年層の消費トレンドが変化したことについて、「若年層は、自分に合った本当に良いものを見極めて買うかどうかを判断するようになりました。安さだけでなく、価格以上の品質を求める傾向にあり、失敗したくないという思いから本物志向に消費トレンドがシフトしていると、調査結果から見えてきました」と中村氏は説明。
小売業態や量販店のビール類カテゴリーのうち、5~6割の消費が新ジャンルカテゴリーだ。消費者に選んでもらうために、真新しさや、目を引く広告を打ち出し訴求していくことも大切なのは変わらない。一方で、より本物が選ばれる時代になってきていることから、商品に対しては徹底的にこだわり、消費者の本音に向き合って商品開発していくことが大事だという。
「本麒麟の商品開発は、消費者のインサイトにあるニーズに応えられるよう、本音に向き合うことを意識しました。130年以上ビール醸造をしてきたプライドやモノづくりへのこだわりを研究開発に注ぎ込み、本物と言われるような商品を作ろうと考えたのです」(中村氏)
なぜ、ここまで本麒麟の商品開発に力を注いだのか。それは、キリンビールが新ジャンルの商品をこれまでも市場に投下してきたが、なかなか受け入れられず辛酸を舐めてきた経緯がある。
「消費者が毎日飲みたくなる味はどのようなものか。キリンビールが長年に渡って培ってきた醸造技術やフィロソフィーを味に反映させ、何度も仕込みのトライアルを重ねました。そのたゆまぬ技術革新とクラフトマンシップから、目指した完成度の高い本格的なうまさを実現するために長期低温熟成という醸造方法を採用し、本麒麟が誕生したわけです」(中村氏)
ビールのように本格的で飲み応えがありながらも、毎日飲みたいと思わせるうまさ。何度も試作を繰り返してたどり着いた本麒麟の味わいは、まさにモノづくりのこだわりが垣間見えるものだ。
「良い商品ができても、実際の消費者まで届かなければ意味がありません。そこでブランドチーム全員で、売り場づくりやテレビCM、Web広告などあらゆるチャネルで、本麒麟の味を含めた世界観がしっかりと伝わるように考え抜きました」(中村氏)
本麒麟の魅力が消費者に伝わるよう、本麒麟に関わる全ての部署やチームを巻き込み、足並みを揃えた結果、消費者の心を掴むことができ、他の新ジャンルを凌駕するほどの大ヒットを記録したのだ。
さらに、新しさや価格の安さというベネフィットに加えて、本物志向の味わいが得られるという満足感を提供できているのも、大ヒットの理由の1つだ。
「愛飲してもらっている消費者と座談会する機会を定期的に設けており、『本麒麟は100年の歴史の伝統と革新を感じた』『キリンが造った進化した味わいだ』などと好評をいただいています。ブランドチームが一丸となって、本麒麟という商品イメージの醸成であるリアルなもの・本物の味を追求してきた成果を実感できたと思った瞬間です」(中村氏)
キリンビールのプライドにかけて作った本麒麟。モノづくりのへの想いやこだわり、覚悟といったものが、消費者へしっかりと伝播したからこそ、好評を博しているのだろう。