長期投資を目指す投資家が注目。新指標「TSR」ってなんだ?

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神鳥谷(ひととのや) / PIXTA(ピクスタ)

 長期投資を目指す投資家の間で密かに注目を集めているTSR。令和元年から本格導入された新たな指標の活用法を億超え投資家らが指南!

TSRで[高配当&値上がり期待銘柄]を探せ!

「今年から面白い投資の指標が導入されたの、知ってます?」  会うなりこう話し始めたのは、株で4億円の資産を築いたかぶ1000氏。業績や財務内容と比較して割安な銘柄でリターンを狙う「バリュー投資」を得意とする著名投資家だ。その指標とは? 「TSR(Total Shareholders Return=株主総利回り)です。配当と値上がり益を合わせた利回りを示す数値。配当利回りが3%で、1年間の株価上昇率が10%なら、単純計算でTSRは13%になる。株主がどれだけ利益を得られたかを一目で示してくれるんです。投資家のバイブルである『四季報』には、すでにTSRランキングが載っています。それによると、東証1部上場企業のTSRの平均値は約9%。1年間、株を保有し続けた投資家は配当と値上がり益でだいたい9%のリターンを得ていた、というのです。長期投資を行う人は高配当銘柄に目が行きがちですけど、株価が下がっても配当が維持されたら、おのずと配当利回りは高くなる。日産自動車がその典型例。配当利回りは6%に達しますが、ここ1年で株価は30%も下げている。TSRと配当利回りを比較することで、触ってはいけない銘柄が判別できるんです」

TSR(株主総利回り)とは?

TSR(%)=(1株当たりの配当額+株価の上昇額)/当初株価  配当と値上がり益を合わせた利回り。「企業内容等の開示に関する内閣府令」では、過去5年間にわたるTSRを記載しなくてはならないと定められた。その計算式は「(直近年度末株価+5年間の配当額)÷6事業年度前の最終株価」とされているため、有価証券報告書には50%のリターンが発生した場合のTSRが「150%」と表記しているが、本生地では利回りの概念に則って「50%」と記載する。  このTSRは今年から有価証券報告書への記載が義務付けられたもの。証券関係者が話す。 「株主の権利や平等性の確保、適切な情報開示と透明性の確保などを定めたコーポレートガバナンス・コードの一環として、金融庁が導入を決めたんです。というのも、TSRは欧米では一般的。だから、国内優良企業の一部は数年前からいち早く決算資料などにTSRを記載しています。役員報酬を決める一つの指標として採用している企業も多い。『TSRが〇%を超えたら役員報酬を△%UPする』というふうに、報酬基準を明確化しているんです。日本企業ではアイルランドの製薬大手シャイアーを6.2兆円で買収した武田薬品が、役員報酬の参考基準として今年度からTSRを取り入れることを決定しました。武田は今年6月の株主総会で役員報酬の総額を27億円から45億円に引き上げることを提案しましたが、『巨額買収の効果も定かでないのに、なぜ?』と株主の反発を呼び、それを受けて、7月31日にTSRを取り入れた細かな報酬基準を発表したんです」

有報にはこのように5年間のTSRが記載されるが、183.1%から100%を引いた83.1%が実際の利回り。これを年率換算すると12.8%に

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TSRで取締役選任議案の賛否を決定?
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