防衛大学校の卒業式で訓示する安倍晋三首相(写真/時事通信社)
3月17日、防衛大学校の卒業式に臨席した安倍首相は、訓示を行った。
防衛大学の卒業式に総理が出席し訓示するのは当然のこと。それが毎年報道されるのは当たり前のことではあるが、今年の卒業式での訓示では各社とも、
「政治も、その責任をしっかりと果たさなければならない。次は、私たちが、自衛隊の諸君が強い誇りをもって職務を全うできるよう環境を整えるため、全力を尽くす決意です」
という一言に注目し、「憲法改正に改めて意欲を示した」と報じている。
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日本テレビ「安倍首相”自衛隊の憲法明記に改めて意欲”」
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共同通信「首相、改憲「政治も責任果たす」 防衛大卒業式で訓示」
この一言だけで「憲法改正への意欲」を表明したと断じてしまうのはいささか性急気味ではあろう。
しかし、訓示全体を読んでみるとこの一言の直前に、
「本日は、昭和51年に卒業されたOBの皆さんもお集まりです。皆さんがこの小原台で学んでいた頃、裁判所で自衛隊を憲法違反とする判決が出たことを覚えておられる方も多いかもしれません。当時、自衛隊に対する視線はいまだ厳しいものがあった。皆さんも、心ない批判にさらされたかもしれません」
との文言を挟んでおり、やはり、「自衛隊違憲論争に終止符を打つ」という大義名分をかかげた、今の自民党の憲法草案を念頭に置いた発言であることが明確になる。
「憲法9条の完全廃棄と国軍の創設」が目玉だった自民党の「改憲草案」がいつのまにか放棄され、代わりに、「憲法9条に第三項を追加し自衛隊の明記」を目玉とするいわゆる「改憲四項目」なるものが自民党の改憲案となったのは一昨年春のこと。それ以降に開催された防衛大学卒業式は、今年で二度目。昨年の防大卒業式総理訓示を読み返してみると、改憲四項目をベースとした改憲への意欲を表明した痕跡はない。つまり今年のこの訓示が、「改憲四項目」をベースにした「改憲への意欲表明」の初の事例ということになる。
衆参両院での3分の2を超える議席や、熱心な支持者からの改憲を求める声を背景に、政権政党の総裁である安倍晋三個人が、改憲に前のめりになるのはいたしかたなかろう。
しかし、安倍晋三は、政権与党の総裁であると同時に、内閣総理大臣という行政上の職務を帯びている。
いうまでもないことだが、安倍晋三は「立法府の一議員」であると同時に「行政府の一行政職員」だ。その行政職員が、行政職員として執り行う職務で「改憲」に対する意欲を表明するのは異例中の異例。現に、「内閣総理大臣」として出席する国会の審議では、野党議員や時には自民党議員からの「憲法改正についての見解を問う」との質問に対し、安倍晋三は常に「内閣総理大臣としては答弁を差し控える」との答弁を繰り返している。
問題はこれだけではない。この訓示が防衛大学の卒業生に対して発せられたということも見逃してはならない。