天才少女・仲邑と台湾の才媛が夢の対局!
2月20日、東京・市ヶ谷にある日本棋院七階のホールには、報道陣による文字通り黒山の人だかりができていた。
とはいっても、これから繰り広げられる戦いは名人戦でもなければ本因坊戦でもない。世界一決定戦でもなく、もっといえば公式戦ですらない。あくまでも記念対局、プロ野球でいうオープン戦みたいなものである。
にもかかわらず、囲碁界には不似合いなほどの注目を集める理由は、最年少プロと話題をさらっている仲邑菫初段が台湾の「美人すぎる囲碁棋士」黒嘉嘉(ヘイ・ジャアジャア)七段と対局するからにほかならない。
午後四時開始に備え、午後三時半過ぎに棋院入りした筆者であるが、控室をのぞくとすでに黒七段が到着し、同郷の謝依旻(シェイ・イミン)六段と談笑しているのが見える。日本棋院による事前の告知によると、「黒七段は対局日当日に来日のため、交通状況、天候不順等の問題によって、対局の遅延もしくは、対局者変更の可能性がございます。」とのことだったが、無事来日できたのだと胸をなでおろす。
「美人すぎるXX」という表現はあまりにも手垢がつきすぎており、まさか筆者が署名記事の中で使うことになるとは夢にも思っていなかったが、控室の黒嘉嘉をのぞき見すると、決して誇張でもなんでもないことがわかる。なお、控室の扉は開かれたままになっており、断じて筆者が何かやましい手法を使って中を見たわけではないことをここに明記しておく。
「美人すぎる」としか言えない台湾の黒嘉嘉
仲邑菫は日本棋院初となる「英才特別採用推薦棋士採用者」枠でプロ棋士となった。
将棋の常識からすると考えられない出来事である。というのも、将棋界においてはプロ養成機関「奨励会」に入会し、まずは三段まで上がり、毎回半年続く三段だけのリーグ戦で一位か二位になる以外、プロ棋士になる道はないからだ。それも、「26歳までに」という鉄の掟がある。かつて、瀬川晶司がプロ棋士になりたいと嘆願状を出した時、大部分の現役プロ棋士が猛反発したのがその点だった。
「オレたちは26歳で死ぬという条件を受け入れて全てを捨てて戦ってきたのに、一度26歳で死んだヤツをなぜ受け入れなければならないのか?」
世間的に見れば、瀬川晶司は当時プロを相手に公式戦で勝率七割以上を記録しており、「プロより強い人が、なぜプロになってはいけないのですか?」という素朴な疑問が生まれるわけだが、実際に何人ものプロ棋士と友人付き合いをして、寝食を共にし、共著まで出している筆者にはこの反発の気持ちが痛いほどわかる。とある友人の高段棋士はいみじくもこの日本棋院の動きを見てこうつぶやいた。
「将棋連盟だったら暴動がおこっているかもしれません」