仏企業ヴァンシ・エアポート・ジャパンが運営する関西国際空港 photo by lasta29 via flickr(CC BY 2.0)
90年代の終わりだった。フランスの水道民営化のカリスマ経営者、ジャンマリー・メシエもマドリッドでの国際会議に参加していて、メディア王に変身するために、電波のオークションを導入せよと蕩々とテレビカメラに向かって力説していた。
メシエは、水道民営化の利益で世界第二位のメディア企業を創業したとして時代の寵児となったが、2002年株価低迷の責任をとり辞任、2011年には経済犯罪者として禁固3年の執行猶予判決を受けて失脚した。後に、フランス政府はパリの水道を再公営化したことはよく知られている。
日産自動車のカリスマ経営者で、レバノン・ブラジル系フランス人のカルロス・ゴーンに対する司直の捜査が、現在、進展しているなかで、フランスでは失敗した水道民営化の担い手会社の係累が日本の政権中枢に食い込み、日本の水道民営化で暗躍しているように見えるのは興味深い。日本の地方自治体の水道の民営化を外資と政商が画策し、政権が迎合しているのではないか。
関西国際空港の運営会社に、4割もフランス資本が入っていることは、いみじくも今夏の台風21号による空港閉鎖の混乱があって周知の事実となった。関西空港は、大阪湾泉州沖にわざわざ海岸から5km離して騒音を避け、岩盤のないところに建設した。後に、燃料タンクが沈下するなどして、地盤対策に苦しむこととなる。例えば、郵政省が建設した空港内の国際郵便局は地盤沈下対策として、伸長する足桁をはく特殊工法で建設されている。
小泉政権が登場して、関西空港を経営する特殊法人を廃止するか、民営化するかの二者択一を迫った。郵政民営化のみならず、道路公団の民営化も燃えさかるように問題化された時代。しかし、外国資本の先導役としてのコンサルタントが進めるのは、直ぐ利益のあがる成田空港や羽田空港の民営化ばかりで、関西空港では、年間90億の損失補填が国費で行われて事業がやっと継続される状態だった。
関西空港の民営化の展望が具体化したのは、民主党政権になって、コンセッションという、ある意味「いいとこ取り」のフランスで普及した方式で民営化の構図が描かれたからである。
関西空港と伊丹空港とを一緒に経営する方式、つまり、関西空港の構造的な赤字を伊丹空港の国内線の利益で相殺するやり方である。後にLCCの制度が導入されて、関西空港はLCCの一大拠点として効を奏したこともあるが、リーマンショックのあとの景気低迷の中では、関西空港の経営は、行政機関のトップを派遣する人事を配しても好転することはなかった。
関西空港は、オリックスとフランスの空港経営事業体との共同経営の会社が設立されて、騒音問題がかき消えたかのように国内線の主要空港として運用が継続している伊丹空港を併せて、経営することとなった。40パーセントを出資して、対等経営を主張するフランス資本側の共同経営者の社長は、カンボジアの空港の代表を務めていた経験はあるが、大空港経営の経験はなく、カルロス・ゴーンと同様に日本語を解することもない。オリックス側の人事も、空港の危機管理等に経験豊富な専門家とは思えない。台風の混乱の中で問題が露呈した。
構造改革論が広がる中で、フラッグキャリアーの日本航空が経営破綻した時、民主党政権下で、主力銀行の日航救済の対応はなく、財政当局と民間金融機関の無慈悲・無策は驚くばかりであった。
日産の破綻の時、ルノー以外に駆け込むところがなかったのも、同様に、日本の戦後金融・産業政策の悲劇ではなかっただろうか。ほとんどの政治家が「内外無差別の資本参加」と大言壮語する始末で、ジャングルの国際社会で安全保障に配慮する考え方は微塵も見られない能天気さが、今に継続しているのではないか。新自由主義政策に加担する政治家が与野党を問わず前面に立ち、背後で外国資本と結託した政商が暗躍するという構図になっているのだ。
関西空港の公団による経営は、本当にまずかったのだろうか。民営化しない方が、今の関西空港と伊丹空港をあわせた繁栄の利益は、経営経験も少ない外資と金融会社に独り占めされずに国民に還元できたのではないのか。
高速道路も郵政の経営も、民営化は成功したのか。むしろ、グローバリズムの後退で見直しが行われて然るべき世界情勢になった。米国では、主要空港等は依然として公営のままである。
<文/稲村公望 photo by
lasta29 via flickr(CC BY 2.0) >
岡崎研究所特別研究員。元日本郵便副会長
提供元/月刊日本編集部
げっかんにっぽん●「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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