『うまい棒は、なぜうまいのか? 国民的ロングセラーの秘密』でビジネスを語れるか――【深読みビジネス書評】

うまい棒は、なぜうまいのか? 国民的ロングセラーの秘密

うまい棒は、なぜうまいのか? 国民的ロングセラーの秘密

 いちばん好きな駄菓子は、なに? ――そう問われて「うまい棒」と答える人は多い。1979年の発売から35年。うまい棒は定番駄菓子のひとつとして、幅広い世代から愛されている。年間の製造本数6億本、累計では100億本を超える大ヒット商品だ。  本書は、そんなおやつ界の国民的ロングセラー・うまい棒にまつわる雑学や、ビジネスのカラクリなどをわかりやすくまとめたもの。全編、うまい棒のパッケージに登場するメインのイメージキャラクター「うまえもん(仮)〈←あくまで仮称らしい〉」と、サブキャラの「博士」のちょっとくだけた対話形式で展開されていくので、表現や説明はとても平易でシンプル。なので、たしかにわかりやすいのだが、読みやすいかと言われると、正直微妙だ。  説明的な要素を盛り込まなければならないので仕方ないところだろうが、対話の文章は少しダルい。とても口語な文体だから、文章が整理された一般的なビジネス書のように、速度を上げて読み進めにくく、文意を類推しづらいところがあるのも事実だ。この仕掛けは、駄菓子というトピックの特徴を踏まえた、敷居の低さやカジュアルさを狙ってのことだろうが、かえって読者を選んでしまう結果に繋がってしまったようにも思う。速読にこだわりのあるような人なら、イラッとしてしまうかもしれない。  とはいえ、それで本書から距離を置いてしまうのは、非常に惜しい。というのも、本書は多くの定番ビジネス書、大ヒットビジネス書で語られたようなビジネス書の要点を、極めて単純かつコンパクトに理解するのに役立つからだ。対話形式の文章も、3トピック分も読めば慣れてしまうはずだ。  たとえば『エクセレントカンパニー』や『ビジョナリーカンパニー』、『競争の戦略』『ブルーオーシャン戦略』といった著名なビジネス書で解説された事柄にも通底する、成功するビジネス、成長する組織が備えた特徴を、大まかに押さえることができるあたりが興味深い。ちょっと探してみるだけで、「古くさくならないように、パッケージをリニューアルするが、懐かしいと感じる人のために、ロゴとキャラクターは変えない」「発売当時よりも今のほうが長い」「(新しい味を出しても)反応がよくなければ撤退し、リスクを最小限にコントロールする」など、ブランディングやイノベーション、効率化といったビジネス書における定番トピックがあちこちに散りばめられていることがわかる。  さらには、松下幸之助といった経済史に大きく名前を残す日本人経営者に関連した本で登場するような、日本人らしい配慮や細やかさ、勤勉さといった要素についても、そのエッセンスを知ることができるだろう。日本が伝統的に大切にしてきたおもてなしの精神や、職人的なこだわり、ものづくりに対する飽くなき探求心など、日本の「商い」が脈々と培ってきた美学が、うまい棒という駄菓子には詰まっているように思えてならない。  1本10円という価格を頑ななまでに守り続ける姿勢と、そのために必要な精緻な効率化やコストダウンといった地道な努力。定番の味や新しい味などさまざまな味を用意して、ユーザーを飽きさせることなく、いつも新鮮な感覚で楽しんでもらうための心配りなど、うまい棒のビジネスには、たくさんのヒントが隠されている。そうした、成功するビジネスの要諦が随所に盛り込まれているのが、本書のいちばんの妙味だ。もし、前に列記したような本を読んで挫折した経験があるなら、まずは本書を読んでみてから、改めて挑戦してみてもいいかもしれない。  一見、ただの雑学系サブカル本のように見えて、実はビジネス入門書として求められるポイントを巧みに取り入れた、クレバーなつくりの一冊である。 <文/漆原直行