出世競争で差をつけるには「ピロリ菌とヨーグルト」の例に学べ――【本田哲也のパーソナル戦略PR術】
2015.01.06
戦略PRとは、「空気をつくって商品の売りにつなげる手法」です。ではなぜ、空気をつくることでモノが売れるのか? 今回は、そのあたりを深堀りしていきましょう。
ズバリ、戦略PRにおける「空気」の役割は、こういうことになります。
わかりやすい実例を出しましょう。「ピロリ菌とLG21乳酸菌入りヨーグルト」の例です。ここでまずつくられた空気は、「ピロリ菌という胃の壁を傷つける細菌が発見され、実は日本人の50%が感染している。胃潰瘍や胃炎の原因になるから、除菌すべし」というものでした。つまり消費者は「ピロリ菌の除菌問題」に気づかされるわけです。「私のお腹が痛いのって、ピロリ菌の仕業だったのね。なんとかしなきゃ」となる。ここに登場するのが「LG21乳酸菌ヨーグルト」というわけです。特定保健用食品にも認定されたこの商品は、「これで毎日の生活の中でピロリ菌対策ができる」ことを徹底的に訴えます。その結果、「ピロリ菌問題」の解決策として広く認知され、大ヒット商品となりました。
いかがでしょうか?空気づくりによる「ピロリ菌問題」への気づき。そして「確実で手軽な解決策」という商品ポジショニングが、結果として消費者に「買う理由」を与えたというわけです。
さあ、これをあなたの成功に当てはめてみましょう。もうおわかりですね?そう、空気づくりとは、実は「あなたの強み」に落ちるように設計することがポイントなのです。そして大事なことは、その強みは、なるべく「差別化されたもの」が望ましいということです。例えば、中堅商社に勤めるあなたは、スペイン語が得意だとしましょう。となれば、社内につくりたい空気はこうなります。
この空気が強まれば強まるほど、スペイン語ができるあなたを「買う理由」は増しますね。でもちょっと待って下さい。まわりを見渡してみましょう。あなたは本当に差別化されていますか?
「オレよりスペイン語ができる先輩と後輩が二人いるんだった」――はい、ダメですね。残念ながら、この空気をつくればつくるほど出世するのはその先輩か後輩です。まさに敵に塩を送ってしまっている状態――「敵塩」です。ピロリ菌の例で言えば、ヨーグルトよりも手軽で確実な解決策があるのに、ライバルに有利な空気づくりをしてしまうようなものです。もっと真剣に、あなたの差別化ポイントを探りましょう。
「うーん……スペイン語だけならあいつらにかなわない。……まてよ、あの二人が担当しているのは繊維だ。かたやオレは食品一筋。よし、これだ!」――あなたのポジショニングがよりはっきりしてきました。そうだとすれば、ここでつくるべき空気はこうなります。
今度は大丈夫ですね。この空気によって「買う理由」が生じるのは、晴れてあなただけとなりました。
さあ、いかがでしょうか。「どのような空気をつくるべきか」という問いは、実は「あなたの差別化された強みは何か?」ということに直結しているのです。企業マーケティングの世界でも、戦略PRを実施するにあたって徹底的に議論するのはここです。いかに空気を自社商品に落としこむか、自社商品の競合との差別化点は何か、空気が「敵塩」になるリスクはないか――ここを外せば戦略PRは失敗します。そして、このシナリオづくりこそが、戦略PRが「戦略」たるゆえんなのです。
次回からは、いよいよ「空気のつくりかた」の話にはいっていきましょう。
<文/本田哲也>
ほんだ・てつや/1970年生まれ。セガの海外事業部を経て、1999年フライシュマン・ヒラード日本法人に入社。2006年、グループ内起業でブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『新版 戦略PR』(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。国内外の大手メーカーなどを中心に、戦略PR自体はもちろん関連する講演などの実績も多数。近著に『最新 戦略PR 入門編』、『最新 戦略PR 実践編』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)、『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など
『消費者に「気づき」を与えて、「買う理由」を生み出す』
「これから我が社では南米諸国との取引がますます重要になる」
「これから我が社では南米諸国との取引がますます重要になる。とくに食品分野が有望である」
『最新 戦略PR 入門編』 2009年に大ヒットした『戦略PR』を一部改訂。「入門編」としてリニューアル! |
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