カショギ氏殺害録画の入手を否定してサウジ批判を避けるフランスの「事情」

ラファールやミラージュを作るダッソー社もサウジアラビアと契約を結んでいる。photo by Military_Material via pixabay(CC0 Public Domain)

 サウジアラビアのジャーナリストジャマル・カショギが、トルコ・イスタンブールのサウジ領事館を訪問して後に殺害された事件から2か月近くが経過した。  その間、トルコ政府はその現場の状況を録音したものを米国、英国、フランス、ドイツそしてサウジに配った。ところが、それを受け取っていないと答えた国が一国だけあった。それが、フランスのル・ドリアン外相である。  しかし、正式な外交ルートで送られたものが受取先に届いていないというのは明らかに偽りである。また同外相がトルコの政治姿勢を批判したことに対し、トルコのチャヴシュオール外相はル・ドリアン外相自身の手元には届いていなかもしれないとしながらも、「サウジでさえカショギの殺害を認めているのに、(フランスが)それを否定したとしても驚くことではない。邪悪なお金のせいだ。最近、どのような契約を(サウジと)結んだか、その人物を近くから追跡してみればよい」と周囲に訴えたいかのように憤りを持って答えたという。(参照:「La Vanguardia」)  カショギがサウジ政府の指示によって殺害されたことは明らかで、各国はサウジに強い批判の目を向けている。それに対して、フランスは沈黙を通す外交を選らんだようだ。そこにはサウジと今年4月に「戦略的な軍事上の合意」を交わしており、カショギの殺害でサウジを批判して両国の関係が悪化することをフランスは敬遠したのである。(参照:「HispanTV」)

米英に続くサウジへの武器供給国、フランス

 フランスはサウジへの武器の輸出では米国と英国に次いで3番目に位置している。2013年から2017年の統計によると、サウジの武器の全輸入量の3.6%をフランスが占めている。また、それはフランスの武器の全輸出量の5.5%に相当する。  ちなみに、サウジの武器の全輸入量の60.8%が米国、22.9%が英国となっている。特に、英国の場合は自国の武器全輸出量の48.8%がサウジ向けになっている。  メルケル首相がサウジへの武器販売の中止を決めたが、それはドイツのサウジへの輸出はドイツの武器全輸出量の僅か3.1%しかないことも背景にある。だから、サウジへの武器輸出に反対を表明しているNGOへの受けをよくすることが容易なのである。(参照:「El Pais」)  フランスが今回の殺害でサウジを批判すれば、サウジはフランスから購入する代わりに米国、英国あるいはロシアそして中国から購入する可能性も生まれて来る。それを絶対に避けたいというのがマクロン大統領政権下のフランスなのである。  ちなみに、トルコもサウジに武器を輸出しており、その割合は1.3%となり、それはトルコの武器全輸出量の16.1%となっている。即ち、トルコ政府がサウジを批判すればするほど自国の武器のサウジへの輸出を犠牲にしている可能性がある。
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サウジに軸を置き始めたフランスの中東外交
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