在タイの元J2選手が語る「タイ・リーグ」での選手生活

現役時代の伊藤琢矢氏(後列左から3人目)(伊藤氏提供写真)

 前回、タイで活躍する日本人を悩ます問題の一つに「契約の問題」があることを説明した。  そして、外国であるタイで活躍するためには、日本人選手にはもうひとつの問題が出てくる。ビザと労働許可証だ。昨今のタイはこのふたつの許可証の発給に厳しくなっているのである。  日本人は空路で入国すれば30日間はビザなしでタイに滞在できる。それ以上滞在したい場合は、観光ビザを取得する必要がある。これで最大90日間滞在可能だが、申請の際に在職証明書を要求されることがある。90日も休める企業が日本では少ないので、普通に考えて観光ビザを申請する人にその要求は大きな矛盾であり、タイ政府がビザ発給に厳しい姿勢を示していることが伺える。  選手としてタイに滞在する場合は就労ビザを申請するが、書類はチームが用意したものに不備がなければ取得は難しくない。しかし、この書類を出してくれないこともある。事務員はタイ人だからビザのことがわからないことは仕方がない。我々日本人も日本のビザのことを知らない人の方が多数であることを考えれば当然ではある。しかし、選手にとっては死活問題だ。

プレーするためにオーバーステイを余儀なくされる

 数年前に地方のチームでプレーしたC氏はチームからビザの書類はもらえないままだった。 「オーバーステイを2回することになりました。どれだけ頼んでも埒が明かなかったので、代理人(契約交渉などを代行してくれる業者)と相談して、結局は自分でビザと労働許可証を取得しました」  これは過去にタイでプレーした人の多くが経験していることだ。先にも述べたようにタイ人自身は自国のビザの厳しさを知らないので、面倒だからと書類を出してくれない。さらに、試合日程の関係で、滞在期間制限をリセットするために一度国外に出るなら試合や練習、会議に影響がない日程にしてくれと簡単に言う。  オーバーステイというのは滞在超過している状態で、タイの場合、悪質でなければ(つまり数日程度なら)軽微な罰金で済む。ただ、これはあくまでも国境での話で、もし市中の警察にみつかってしまった場合は不法滞在者扱いで、それこそ犯罪者となってしまう。  一方ではチーム側にも言い分はあるようだ。外国人選手は多くが1年契約でサインするが、実際にはシーズンが行われる2月から10月までが契約期間になる。もちろん活躍できなければばっさりと途中で追い出される。いずれにしても、この契約期間の半分(前期)をチーム側は試用期間と見ているのだ。だから、わざわざビザの手配をするのは面倒だし、後期には出してあげてもいいよ、というスタンスなのである。ところが、後期も出さないチームも少なくない。
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在タイの元J2選手の元にも舞い込む相談
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