筆者の心を救ったのは、宿泊予約を入れてくれていた外国人観光客からの励ましのメールだった
家主の裏切りにあい、しかも友人の不動産業者からも「今のご時世で民泊を前提に貸してくれる物件はほとんどありません」と聞かされた
前回。
実は、この時期に入っていた予約の中に、ジョヴァンニとセシリアというカップルがいた。この二人はドイツ在住のイタリア人だが、二年前に我が家に泊まっていた。つまりリピーターである。
フェイスブックでもつながっていたので、筆者はセシリアに現状を説明した。
「多分知っていると思うけど、日本政府が急に法律を改悪して、君たちを泊めてあげられないかもしれない。申し訳ない」
筆者としては、もしこの二人を泊めてあげられなかったら東京に来た時に夕食にでも招待してお詫びするつもりだった。しかし、セシリアはこう言ってきた。
「それなら、個人的にでもいいから私たちを泊めてくれない? 私たちは、東京であなたと会って、あなたの家に泊まりたいのだから」
友遠方より来たる、まさかの時の友こそ真の友、という言葉をこの時ほど実感したことはない。筆者は意地でも民泊事業を続行しようと決意した。結局、民泊ゆえに傷ついた筆者を救ったのは、民泊による人とのつながりだった。
そんなとき、ふと蘇ってきたのはかつて通っていたバーの姿だった。
筆者は2001年7月から約一年間イスラエルのテル・アヴィヴ大学に留学していた。そのころ、よく通っていたのが米国大使館のすぐ隣にある「マイクズ・プレイス」だった。
このバーの目玉は、チーズバーガーとフライドポテト、そして地ビール「ゴールドスター」のコンボだった。全くの余談だが、イスラエルのマクドナルドにはチーズバーガーがない。「子山羊を、その母の乳で煮てはならない」(出エジプト記23:19、34:26、申命記14:21)というユダヤ教のタブーに触れるからだが、マイクズ・プレイスにはあった。
理由は未だにわからない。そして、大学院生のカナダ人「スキニー・ジョー」がライブをするたびに学校の仲間とこの店に通っていたわけだ。イスラエルで一番の思い出の場所である。
しかし、そんな「マイクズ・プレイス」が筆者の帰国後に自爆テロの被害にあった。2003年4月30日のことである。三人の死者と五十人以上の負傷者が出た。
「ゴルゴ13」で主人公のデューク東郷は必ず壁を後ろにして座っているが、あれは正真正銘ただしい自衛法である。入り口を見ていれば不審者の侵入に気付くことができる。
ちなみに、自爆テロ犯の爆発物の攻撃力は大きく、バス一台、バー一軒くらいであれば軽く吹っ飛ばすことができる。しかも、パレスチナ人の自爆テロの際には腰のベルトの中にクギやガラスの破片を仕込んでおり、さらに殺傷能力が高まっている。
だからもし店に自爆テロ犯が入ってくるのを認識すれば、とにかく地面に伏せることだ。そうすれば、ケガしたとしても背中や大殿部だけで済む。人間の体で、特にケガしたくない部分と言えば全て体の前部にある。目を含む顔全体、性器、腹部もそうだ。後ろは骨と脂肪でおおわれているからまだ被害が少なくて済むのだ。
筆者は未だに窓の前の席には絶対に座らない。自爆テロでなくとも、投石や車が飛ばした石などで窓ガラスが割られて目に刺さるのがイヤだからだ。壁を背にしておけば、いざという時でもデート相手にすぐ覆いかぶされば楯になることができる。
ここで少し考えてみてほしい。もし日本でこういう事件があれば、間違いなくその店は営業停止して、そこの土地は更地となるであろう。仮に営業を続けたとしても、おそらく客が寄り付かないのではないか。
しかし、ここからが違った。マイクズ・プレイスは自爆テロ後十日そこそこで営業を再開した。しかも、その後逆に人気が沸騰し、隣の店も買い取って事業拡張した。
イスラエル人の論理だと、ここでマイクズ・プレイスに行かなくなったらテロに屈したのと同じことになるのである。マイクズ・プレイスは今もイスラエルの不屈の象徴として生き続けている。もし筆者が「アナザースカイ」に出演するなら、間違いなくマイクズ・プレイスを選ぶだろう。