北海道電力は今回の震災を教訓として「常敗無勝国策」から脱却せよ

苫東厚真火力発電所

地震により損傷し、全面復旧が11月以降になると北海道電力が発表した苫東厚真火力発電所(時事通信社)

再検証・大停電の前に何が起きていたか

北海道胆振東部地震「泊原発が動いていれば停電はなかった」論はなぜ「完全に間違い」なのか』を執筆した時点では、9月6日未明の地震について9月8~9日の執筆でしたから、不明なことがたいへんに多く、北海道電力の送電網が受けた被害どころか、大停電の推移ですら推測に頼らざるを得ないものでした。その後北海道電力による発表、9月13~15日にかけての北海道新聞など報道各社による取材と報道によってある程度の事実関係は明らかとなっています。  一方で、広域送電網の震災による被害と経時変化についてはパラメータ(変数)が膨大な為に解明がきわめて難しく、今後の北海道電力による事実の調査と公表、そして研究者による調査・研究・議論によって、電気・電力系学会で発表されるのを待つことになります。来年春の年会から数年間は目が離せないでしょう。  さて、北海道新聞が9月13~14日にかけて報じた記事と、朝日新聞が同日報じた記事を北海道電力による発表とあわせると、現時点で分かっていること、不明なこと、疑わしいことが概ね分かってきます。 ●2段階で全道停電 一部地域切り離し、十数分しか持たず 北海道新聞09/13 07:23 更新全道停電、緊迫の18分間 北本連系は一時機能/厚真1号機の停止致命的 北海道新聞09/13 09:16 更新全道停電まで緊迫の18分間 泊原発への電力供給維持に手を尽くす? 北海道新聞 Yahoo配信9/13(木) 19:31京極の水力発電、再稼働 胆振東部地震 節電目標、引き下げ14日判断 北海道新聞09/14 09:09 更新道内全域停電 なぜ起きた 周波数の急激な低下が原因 交流・直流の変換所 機能せず 北海道新聞 解説記事09/14 10:13北海道を闇に包んだブラックアウト 空白の17分に何が 朝日新聞2018年9月13日06時32分  他にも各社、有用な記事を報じています。また、北海道電力による送電網の被害についての発表と、発送電施設の情報が基幹情報となります。 ●設備および停電等の状況について(9 月 7 日 15 時現在)北海道電力系統空容量マップ(187kV以上) 北海道電力  また、北海道在住のTwitterのフォロワーさん達から寄せられた、停電がいつ生じたかと言う数多くの情報もあわせて参照していきます。

泊への送電を死守していた北電

 地震発生は2018年9月6日3時8分、北海道胆振地方中東部深さ37kmを震源に、M6.7でした。この後、震度6+~7であった苫東厚真発電所は2号機4号機が緊急停止し、3:10ころには道東全域が停電しています。  北海道電力発表によると、狩勝幹線(275kV)でNo.52鉄塔の周辺地滑りが起き、岩知志線(66kV)で鉄塔二基の倒壊が起きています(参照:北海道胆振東部地震による当社送配電設備の被害状況と復旧見通しについて 第2報 2018年9月16日 北海道電力株式会社)ので、北新得変電所以東への送電に障害が発生したようです。ただし、釧路で一時的に送電が回復していると言う証言がありますので、187kV送電線や他社送電線を介しての送電や北海道電力が多数擁する水力発電所からの送電が試みられたものと思われます。  しかし、結局送電網の需給バランスが維持できず、道東はブラックアウトに陥ったのでしょう。ここで重要なのは狩勝幹線を失ったと思われることと、他社送電線と古い187kV送電線を用いても送電回復できなかったことですが道央での需給が維持できなくなっていましたのでもはや中央給電司令所では手が回らなかったのでしょう。  この後10数分間ほどの間、苫東厚真1号機(石炭火力350MWe 1980年運開)の運転維持と、道北と西双葉、双葉変電所以西(道南)の送電網からの切り離しによって道央と泊幹線および後志幹線を介した泊発電所への送電を維持していたことが分かっています。また、北本連系線も直ちに100MWeから能力いっぱいの600MWeに北海道への送電量を増やし、道央と泊発電所への送電をまさに「死守」していたことが分かります。  送電網に異常が生じた場合、自動検知によって遮断器が働き、送電網を守る為に異常の起きた部位と抹消に当たる送電網を自動で切り離して行きます。このとき全道で、パンパンパンという音を聞いた方も居るかと思います。  この情報は中央給電司令所に直ちに伝わり、深夜当直となっていた中央給電司令所はまさに蜂の巣をつついた様な状態となり、送電網の保護、停電域の拡大阻止、重要な需要家(行政、病院、インフラ関係)と泊発電所を守ることに専念します。地震では揺れの直後に電力需要が落ち込みますが、その後需要が急増する為、需給バランスが崩れないようにするために発電量の増加が出来ない場合は停電域を増やしていくことになります。  ここまでの事実関係から、震度6+~7の揺れによる打撃を受けながらも南早来変電所は機能を喪失していなかったことがわかります。変電所は震災による打撃が大きく、影響は発電所を遥かに上回って甚大なものとなることが阪神大震災、東日本大地震などの教訓としてあるのですが、変圧器のアンカーボルトの強化、遮断器のABB(空気遮断器:鬼の角のようにみえる)からGIS(ガス開閉装置:ドラム缶の横倒しに見える)への更新など、電力各社も対策を進めており、南早来変電所は対策が間に合っていたのでしょう。この点は称賛に値します。  変電所、開閉所の耐震対策についての一般向け解説は見当たらないのですが、個人ブログでP.N.岩見浩造氏が解説記事を公開されています。論評抜きで以下にご紹介します。 ●地震で壊れた福島原発の外部電源-各事故調は国内原発の事前予防策を取上げず 2014年11月15日岩見浩造電力各社の原発外部電源-関電美浜・原電東海第二は開閉機器更新の実施未定- 2014年12月28日岩見浩造開閉機器メーカーの活動実態-各事故調が食い込まなかった津波対応、更新提案、カルテル- 2014年12月28日岩見浩造寿命25年、安全率1倍が前提だった「変電所等における電気設備の耐震設計指針」(JEAG5003)2017年2月12日  一方で、3:25に苫東厚真1号機が被災による損傷が拡大し、自動停止しています。苫東厚真1は、地震によりボイラー水管が損傷し水蒸気が漏れた状態で発電していたことが分かっており、この発電機の維持が今回の大停電の鍵と思われます。事実、この苫東厚真1の停止を持って道央地区、泊発電所ともにブラックアウトし、外部電源を失った為に他励式である北本連携線も機能を失いました。この後、ごく一部の地域で電力供給の継続が試みられたようですが、朝8時過ぎ頃に完全に全道停電となっています。  本来ならば、ボイラー水管に穴の開いた場合、発電機に限らず蒸気機関は直ちに止めます。そうしなければ機器の損傷は急速に拡大し最悪の場合は全損もあり得ます。また人身事故を起す可能性もあります(初期のきかんしゃトーマスでも、ボイラーに異常を起した機関車はそこで直ちに動けなくなる。多少リアリティのある描写ではフィクションであってもボイラー故障は最も深刻な事故として扱われている。汽車の絵本シリーズの原作者であるウィルバート・オードリー牧師は、鉄道と蒸気機関の描写にはたいへんに厳格であった)。  ボイラー水管に穴が開くと高温高圧水蒸気が大気開放されるのですが、このとき耳を塞ぐ他ない大轟音と白煙を生じます。私は年に数回、中型火発のタービントリップによるこの現象を昼に夜に数百メートルの間近に見るという環境で18年間育ちましたが、運転員があの轟音に気がつかない訳がなく、分かった上で危険を承知で敢えて運転を維持していたと考えて良いでしょう。何故でしょうか。
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泊への給電を最優先と妥当な判断をした北電
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