百田尚樹とかいう2015年ビッグバン期待のオールドルーキー――山本一郎【香ばしい人々returns】
2014.12.18
山本一郎です。かつて一緒にビジネスをしていて喧嘩別れした御仁が、少し前に自己破産していまでは生活保護を申請していると聞いて、慌しい年末で忙殺される心に穏やかな火が灯りました。皆さん、いっとき上手くいっても、続くとは限らないのが人生ですから、目の前のことに一喜一憂せず地道に生きていくほうが最終的に人生近道っすよ。マジで。
ところで、最近百田尚樹さんというのが面白すぎるわけです。現在の百田さんのブレークのきっかけはやしきたかじんさんの闘病と逝去にあるようですが、東京や海外にいる私にとって、やしきたかじんさんが亡くなられるインパクトについては正直ピンときません。それが利権だ何だと言われても良く分かりませんし「そんなもんなんですか」という感じです。
しかし、百田尚樹さんは抜群に面白いです。なんでしょう、あの強烈なビジュアル。いや、作品は何作も拝読していますし、作家としては凄いのは良く分かるのですが、日本社会はまだまだ捨てたもんじゃないなと思うのは、あれだけのアクの強いキャラクターを持った個性がいままでずっと陽の目を見ることなく温存されてきて、その誕生から半世紀が経って突然日本社会の中心で超新星爆発したが如き輝きを放つというのは素晴らしいってことです。頭だけでなく存在が輝いています、百田さん。
もちろん、今の日本社会がそういう消費できるキャラクターを強く求めているという風にも言えるのですが、話題になっている『殉愛』を読み、やしきたかじん一家の愛憎満ちた逸話やその周辺に巣食う大人やその大人の事情、そしてその話題の山の上にどっかりと座る百田尚樹。これってもうこの時点で映画化決定ですよね。
本来であれば、作家の人間性というものはよほどのことがない限り秘められた編集者や業界の中だけで共有されるものであり、いくら自己顕示欲が強くともちょいちょい垣間見える程度で、たいていはベールに包まれています。しかし、百田さんは違う。自らかけられたベールを引きちぎり、スポットライトめがけてぐいぐい猛進していくようなさまが麗しい。
やはり百田さんといえば、書いている小説は抜群に面白く書き手としての才能が溢れている割に、良い意味で人格が崩壊しているために身の回りでは騒動ばかり起きるという点で生粋のエンターテイナーだと思われるわけです。
そもそも、売れ続ける作家というのは円熟して人間味から生まれるというよりも、むしろ逆に偏った人格が社会の不条理や抑圧に対して過剰に反応し、普通の人からは思いもつかないような角度から事象を解き明かす作家性を持っているからこそ文体に力が生まれ読む者に共感を持たせ社会と一体となって売れる作品をたくさん世に出すことができるのでしょう。
一方、百田さんの場合はそういう作家性の深くに「ネトウヨ」という秘伝のたれがあり、読む者の心のどこかに潜む迎合主義的なネトウヨ精神を呼び覚まして崇高な目標に挑む若者の貴重な犠牲を大胆に描写する的なアプローチも駆使しつつ売れる作家として急上昇を遂げられました。つまり、その作家としてのオリジンがすでに現代日本のネトウヨ勃興に相性バッチリの状態で覚醒したのであって、地中深くに眠る竜が地上の呪詛によって呼び覚まされて王国が崩壊するが如きシチュエーションが目に浮かぶわけです。
そして、本来であれば「ああ、右がかった作家さんね」で終わるはずが、どういう理由か時の権力者の精神に宿るネトウヨと共鳴して、お友達人事の果てにあれよあれよという間に公共放送の経営委員にまで抜擢。そりゃあそういう人に権力のマシンガンを持たせたら嬉々として乱射待ったなしなのは当然でしょう。
通りかかったたかじん問題というのは、本人の早すぎる不幸な死と、どこまでが本当だか分からない親族や関係者、また本人が築き上げた影響力とマネーといった、揮発性の高い燃料がばら撒かれている状態なのですから、これはもう光の速さで百田尚樹オンステージになるのは当然の帰結といえましょう。
残念ながら、百田さんの作家性というのは緻密さを欠いていたり、作品よりもオレが先に立つ部分が否めないので、その爆発力は持続することなくだんだんと下火にならざるを得ないでしょう。ただ、個人的に思うのは百田さんというのは沈滞した現代日本に暮らす人々の心におとなげない笑いを届けるという稀有な才能を惜しみなく披露する使命を背負っているように感じます。百田さんの逸話の一個一個がクズで面白く、どうしようもない一方、並べてみてみると着実に日本社会の構造をうまくハックして上昇していっている、という点で非常に優れているとも言えます。まるでジェットコースターがチキチキと上昇していっているかのような風情が香ばしい匂いを乗せて人々を楽しませてくれていると感じます。
こんな凄い逸材を温存してきた日本はやはり捨てたもんじゃないぞ、50年ものだぞ、という事実に気づいたとき、多用な日本を生き抜いていこうと思えるようになってきました。百田さんだって、あそこまでやれるんだ、と。ありがとう、百田さん。
<文/山本一郎>
やまもといちろう●1973年東京都出身。アルファブロガー。ネット業界やゲーム業界に精通し、投資業務とコンテンツ開発をメインにWebで数々の評論活動などを行う。イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社代表取締役。最近では子宝にも恵まれ、仕事と家庭を両立させつつも、さらにシミュレーションゲーム、プロ野球の応援などにも精を出す。
『殉愛』 百田尚樹問題の一作 |
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