賃貸か購入か? 新築か中古か? 一戸建てかマンションか? 不動産執行人が考える「ベストな選択」<競売事例から見える世界6>

ローンを組んでまで家を買う意味とは?(※写真はイメージです)

<不動産執行人は見た6>  私の生業の一つは、不動産執行のサポートである。  家屋の取り壊し費用やリフォーム改修費用も発生しない土地のみという競売物件には需要も大きい。  土地のみの調査の場合は主に図面上のサイズと相違がないか、不法投棄物の有無、越境や地中配管の位置取りといった隣家との境界トラブルが重点的に調査される。  また債務者立ち会いでないことが多く、この日の不動産執行も不渡りを出してしまった地元中堅企業は夜逃げ同然の状況で、立会に出向くものはいなかった。  人気駅から徒歩5分圏内の好立地で周辺環境も極めて良く、最近まで駐車場として使われていたようで植物による侵食もなし、地盤も良好なうえ敷地面積も広いという珍しいほどの良物件。  土地自体に落ち度はなく、高額落札も期待できる。  ちなみに、このような良物件には業者の入札が殺到するのだが、残念ながらせっかくのゆとりある広い土地も購入した業者により驚くほど細切れにされてしまう。  理由はもちろん消費者に購入しやすい価格帯の物件を用意するためだ。  そのため近年の首都圏売れ筋不動産は敷地面積を極限まで狭く切り、上モノを小さな3階建てにしてなんとか居住空間を確保。そんな、苦肉の策で手が届く価格帯が維持された状況がズルズルと続いている。  この傾向はお値段据え置きで内容量が徐々に少なくなるスナック菓子と重なる。  逆に人口減地域では自治体が主導する形でゆとりある敷地面積と低価格を売りにした見栄えの良い住宅地を設け人口減に歯止めをかけんとしているが、今の所思惑通りにことが推移している地域を見たことがない。  さて、その日訪問した物件では、一点だけ気になる部分があった。  地中の水道管が隣家の直下を不自然な形で通過しているため、隣家となんらかのトラブルを抱えている可能性があったのだ。  このようなケースでは執行官が競売や差し押さえ案件であることを伏せ、隣家を直接訪問し話を聞く。  物件裏に隣家があったのだが、首都圏一等地とは思えぬ廃屋同然の長屋。入り口の引き戸には昔ながらのねじ込み式の鍵があり、施錠されている形跡はない。  人の気配じみたものはあるのだが、呼びかけても応答がなかった。  どう判断するか難しい状況ではあったが、執行官は入り口扉を開けてみることにした。  小さな土間の先に六畳の一間、土間の右手には昔ながらのタイル張り流し台。雨漏りもしくは風雨の吹き込みがあるのか壁には全体的に水シミがある。内容物が超過状態にある介護用ポータブルトイレの隣に置かれた介護用ベッドの上に、80代後半と見られる女性がちょこんと座っていた。 「水道管についてちょっとお伺いしたいのですが」 「水道? そんなものうちにはないよ」  確かにその家に水道はなく代わりに小さな庭の角には井戸を囲ったプレハブの小さな小屋があった。  水道はないという回答を得たため、調査は終了となったのだが、さすがに執行官も心配したらしく少し話をしてみると、この廃屋同然の長屋は賃貸住宅であり、保守管理が放棄されたまま数十年が経過。今更文句を言って追い出されても行く宛がないため、死ぬまでこのままにするしかないとのこと。また、賃料もなかなかのお値段で年金の中から工面しているという。  なお、身寄りはなく週に1~2回だけヘルパーさんが様子を見に来てくれる生活が長らく続いており、おそらく今後も続く。
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持たずに借り続けることが大きな負債となることもある
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