ドラマ版「孤独のグルメ」井之頭五郎が毎回泣きそうな顔をしているのには理由があった
こんにちは。微表情研究者の清水建二です。私は職業柄、ドラマや映画を観るときにどうしても登場人物の表情に目が向かってしまいます。表情を頼りに、言葉(セリフ)に込められた想いの重み付けを想像したり、言葉との矛盾に気付いたり、沈黙の中にある意図を感じたりしながら楽しんでいます。
本日は、そんな私の「表情分析的ドラマの楽しみ方」をご紹介させて頂こうと思います。今回取り上げさせて頂く作品は、『孤独のグルメ』です。久住昌之(原作)・谷口ジロー(作画)両氏によるグルメ漫画のドラマ版です。主人公の井之頭五郎さんは松重豊さんによって演じられております。
ドラマに登場する実在のお店に実在の美味しそうな料理の数々、そして五郎さんの食べっぷりと食体験の絶妙な形容の仕方に多くの方々が魅了されているのではないでしょうか。
私もそんな一人です。門前仲町の焼き鳥屋さんから始まった初回の放送から全ての放送を見るくらいファンです。2018年現在、Season7がテレビ東京系列にて放映中です。
本日はそんな五郎さんの表情、畢竟、松重さんの表情を表情分析的に見ていきたいと思います。
『孤独のグルメ』では毎回必ず登場するお決まりのシーンがあります。それらは五郎さんが、腹が減ったシーン、メニューを見るシーン、最初の食事を口にするシーン、味を変える(違う食事を食べる)シーン、ごちそうさまのシーンの5つです。そんなシーンの中から3つをピックアップしシーン別に生じる典型的な表情を分析したいと思います(※1)。
※1 今回の分析では「ドラマゆえに視聴者を意識した表情がある」「松重さんはこのとき〇〇と思って演技したのだろう」という解釈はやめて、ドラマの中でリアルな生を生きる主人公の気持ちを純粋に推察しました。
《腹が減ったシーン》
五郎さんが一仕事終えると、その仕事の余韻を残しながらも「腹が減った」と心の中でつぶやくシーンがあります。このときの五郎さんは、眉間にしわがより、口角が下がり、口をポカンと空けた表情をします。空腹感が強いとき、この典型表情に眉の内側が上がる表情が加わることもあります。
この表情は、熟考+悲しみ+情報検索 の混合感情です。
五郎さんの「腹が減った」という心の中のさらに心の声を推察するならば、「あ~この街よ、俺の腹を満足させてくれる食堂に導いてくれ」というある種の偶然の出会いに期待する声が聞こえてきます。
そんなちょっと弱気な表情も次の瞬間、眉間に力が入り、目が見開き、軽く口角を引き上げた決意の表情に変わり、颯爽とお店を探し始めます。
《最初の食事を口にするシーン》
ようやく店を見つけそして何を食べるか決意します。その決意が目の前に現れます。そして最初の一口を口に入れ、5、6回ほど咀嚼します。
このとき五郎さんは、眉間にしわを寄せ、唇に力を入れ、口角を軽く引き上げた表情をします。前者の2つは私たちが食を味わっているときの典型的な表情です。ここで興味深いのは「口角の引き上げ」、すなわち微笑が起きていることです。
「美味しいもの食べているのだから、笑顔が現れても普通じゃない?」と思われるかも知れません。実は、美味しいものを食べているときに、微笑含め笑顔が生じることは珍しいことなのです。
本当に「美味しい」を感じているときの私たちの表情は真顔なのです。これは他人(特に仲間と感じない人々)に美味しいものを食べていると知られたくないためです。
他人に食べ物を奪われてしまうことを防ごうとする適応行動であり、太古の昔から連綿と続く私たちの遺伝に刻まれたと言っても過言ではない、いわば表情戦略なのです。
この例外としては(※2)、美味しいものを味わっているという幸福感を「仲間と感じる友人・知人」と共有したいと思うとき、連帯意識や幸福感を増幅させるためのオーディエンス効果が機能するゆえに、私たちは「美味しい」という感想を笑顔を「作って」伝えます。
※2 もう一つの例外は甘味です。私たちは甘さを感じるとき、口角を引き上げることがわかっています。
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