一見住みやすそうなタイも気を引き締めないとあっという間に転落する
タイの邦人保護案件でよくあるのがスリや置き引きなどといった少額の被害事件だが、最近では詐欺などの被害に遭うというケースも増えているようだ。タイの法務関係の仕事に就く人物S氏から聞いた話では、日本で定年退職をした年代の人の被害が増えつつあるという。
タイは日本の定年退職者などに向けた長期滞在ビザ「ロングステイビザ」を設けており、たくさんの高齢日本人が利用している。年金や退職金をタイで使ってもらおうという目論見であり、ビザ取得者も物価の安いタイで生活ができるという魅力がある。
ただ、近年は物価が高騰気味で、タイ人のように屋台でタイ料理だけを食べていれば安く過ごせるものの、和食を食べたり、旅行でタイを訪れた感覚で生活をすると、逆に日本よりも生活費が高額になる。思っていたのとは違うということでタイ生活を諦め、日本に帰国する人もいる。
もちろん、中には隠居生活を行うのではなく、現役続行でタイで一旗揚げようというアグレッシブな人もいる。しかし、これもまた思い描いていたほどに甘くなく、あっという間に全財産を失うという、洒落にならない事態にはまり込んでしまう人もいる。
日本人がタイで一旗揚げるには、必ず法人設立をしなければならない。タイ人なら道ばたでモノを売ることもできるだろうが、タイ政府は外国人に対して就労できる業種を限定していて、日本人はその範囲で起業しなければならない。そして、労働許可証も別途得る必要がある。起業のバックアップなどもできるある弁護士はこう話す。
「タイ法人は月々の提出書類が多く、税務関係など月に2回書類を出す必要があります。法人は休眠させることもできないので、外国人がタイで起業する場合は生活基盤をタイに置いた上で、それなりの覚悟が必要です」
日本人在住者の多いトンロー通り。大半が問題ない日本人だが、中にはつき合ってはいけない人もいる
また、若い人ならともかく、高齢になってからの移住だと言語習得が困難だ。英語が堪能であっても、公用語がタイ語である以上、タイ語なしでは不利になる。そこで月々の書類作成も含めて経営コンサルタントなどを頼る。冒頭のS氏はこうも言う。
「言葉の壁があって、どうしても日本人向けのコンサルに頼り切ってしまう。これが危険なんです。悪徳コンサルだった場合、最初はうまくいっているように見えても、決算時に大きな問題となって顕在化します。そのときに労働許可証やビザの延長もできないことに気づきます」
月々の書類に目も通さず、すべてを任せていると、会社としてうまく機能していなかったり、場合によっては乗っ取られていることもある。そのときにはあとの祭りだ。