音楽家の夢破れホームレスに。歯磨き粉で食事も……。異色の世界的デザイナーが「クラフトビール」に挑むワケ

 ビール市場全体の消費低迷が続くなかで、元気なのがクラフトビール市場だ。小規模醸造ならではの個性を持つ味わいや香りが、多様化する消費者ニーズとマッチ、今やスーパー、コンビニエンスストアでも手に取ることができる。その人気は単なる一過性のブームで終わる気配はない。  日本で小規模醸造が誕生したのは、’94年の酒税法改正までさかのぼる。ビールの最低製造数量が2000キロリットルから60キロリットルへと大幅に緩和されたことで、4大メーカー以外でもビールの醸造が可能となり、全国に小規模醸造所が誕生した。群馬県太田市が地元企業とともに第三セクター法人「夢麦酒太田」を設立したのも、同年のことである。  その夢麦酒太田が販売する、クラフトビール「CHROA(クロア)」が個性的だとネットで話題となっている。たとえば、「CHROA BLACK PARADE(クロアブラックパレード)」のラベルに書かれているコピーは以下の通りだ。 「胃に送り出す深い赤褐色の液体は何故か脳に行きいつかの黒い失恋を回想させる。  愛とは勉強するものではなく触れるもの。  例えそれがお前の黒歴史でも。  触れる勇気すらないのなら、自分を恋愛背任罪で告訴しろ。」
クラフトビール01

クラフトビールクロアのイメージビジュアル。ネットではハードボイルドとの声も

 この強烈な世界観を作った人物とは何者なのか。製造元である夢麦酒太田に問い合わせた。

仕掛人は世界的なホイールデザイナー

 CHROAのプロデューサーとして取材に応じてくれたのが、デザイナーの片岡達也(TATSUYA KATAOKA)氏だ。  片岡氏はアメリカの有名カーホイールメーカー、MHT Wheels社で「KAOTIK(ケオティック)」シリーズを手がけたことで広く知られるデザイナー。従来のカーホイールの常識を覆すオーガニック(有機的)なデザインは、斬新さと美しさからカー市場で一大ブームを巻き起こした。 「KAOTIK」シリーズは、「ホイール界のロレックス」とも呼ばれ、ハリウッドスターやミュージシャン、NBAやNFL の選手にも愛用者が多いという。
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片岡氏がデザインしたホイール「KAOTIK」シリーズ

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ミュージシャンの夢破れホームレスに。アメリカで再起
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