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「日立製作所の世界戦略に暗雲――」
そんなイメージを持って、このニュースを受け止めた人も多いのではないだろうか。10月半ば、日立製作所が製造した高速鉄道車両「クラス800」がイギリスで営業運転を開始。しかし、その営業初日に空調設備から水漏れが発生して客室が水浸しになって遅延を招いた。折り悪く同車両が神戸製鋼製のアルミ材を使用していたことから、それが原因だという見方もされてしまった(実際は無関係)。
ともあれ、日立にとっては一世一代の晴れ舞台でとんだトラブルに見舞われてしまった。これでは「日本の鉄道車両はダメ」との烙印を押されてしまうのでは…と気をもむのもよくわかる。ただ、鉄道専門誌の記者は「こうしたことは日常茶飯事なのであまり気にする必要はない」と言う。
「デビュー直後の新型車両にトラブルがあることは、決して珍しいことではありません。例えば、山手線の新型車両E235系はいきなり車両トラブルを起こしてしばらく営業運転に出なかったことは記憶に新しいはず。また、2015年12月に開業した仙台市営地下鉄東西線では、開業前日の試乗会中に運行システムがダウンしたこともありました。スマホやPCなどでも新製品発売直後はバグなどの報告が相次ぐことと同様、鉄道車両も機械ですからいくら事前に試運転をしていても営業開始直後には思いもよらぬトラブルが起こるものなんです」
ちなみに、さらに歴史を遡れば、1914年に現在の京浜東北線が営業を開始したが、来賓を乗せた車両が立ち往生するトラブルがあった。原因は単なる準備不足だが、おかげで本格的な営業運転開始は約半年間遅れている。この例はいくらなんでも古すぎるが、いずれにしてもさまざまな技術を結集した鉄道車両にはトラブルがつきものなのだ。
「ダイヤが乱れるようなトラブルになればニュースになりますが、安全運転にはまったく支障がない範囲の車両トラブルは実は頻発しています。それは新幹線車両でもそう。運転士はそうしたトラブルへの対応もできますし、車両の設計もトラブルの発生に備えて冗長性を持たせている。日立の件もそれと同じ。イギリス在住の鉄道ファンに聞きましたが、ほとんど問題視はされていないようです」(前出の記者)
これは特に日本に限らないことで、だからイギリスでも今回のトラブルを持って「日立はダメ」とはならないということ。それに、海外のメーカーも負けず劣らずトラブルは頻発しているし……と、安心したいところだが、「あまりいい出来事ではない」と正反対の見方もあるようだ。