ハイボールの戦略PRから学ぶ出世術。できる男の“空気”をつくれ――【本田哲也のパーソナル戦略PR術】

ハイボール 今年もそろそろ年末。2014年も「アナ雪」を始め、さまざまなブームやヒット商品が生まれましたが、数年前には「ハイボールブーム」がありましたね。小雪さんの色っぽいCMも記憶に残っているんじゃないでしょうか。ウイスキーの復権を願うサントリーが仕掛けたこのブームは、ハイボールという古くて新しい飲み方提案を、日本中の飲食店を巻き込みつつ大量の広告投下を行った大作戦でした。このブームの裏には、もうひとつ大きな秘密があります――「空気」の存在です。 「空気」って? そう、「もうちょっと場の空気読めよ」の空気です。この「空気」というもの、僕はこう定義しています――「たくさんの人々が、暗黙のうちに共有している情報の集合体」。どういうことでしょうか? そしてさらに、空気と人の行動は、実に密接な関係にあるんです。  例えば、大事な接待で会食をするとしましょう。しかも相手は大事な海外からのお客様。有名な寿司屋で席に座り、メニューを開く。あなたは部長、課長と居並ぶ列の末席で、とにかく場を和やかに、スムースに進めることを求められています。VIP級のお客様であるビルさんは、絶品の寿司ネタをいたく気に入った様子。 「シーフードは大好きです。なんでも食べられますよ!ただ、臭いのキツイ日本食は相変わらず苦手でね。ハハハ」  一同、和む。そこですかさずあなたが、 「そうですか。そうそう、巻物ももっと頼みましょう。大将、納豆巻き多めで!」  その場の空気は一気に凍りつくでしょう。みんなが苦い顔であなたを見る光景が、まざまざと浮かんできそうです。  その場では、「ビルさんは大事なお客様」「ビルさんは臭いのキツイものは苦手」という情報が共有されていました。そして、ビルさんを気遣ったメニューを頼むのが当たり前だという共通認識が生まれていたのです。

空気は作ることもできる

「空気」とはこういうものです。その場にいる人々の多くが、暗黙のうちに共有している情報の集合体。本物の空気と同様で、普段は誰も意識することなどないし、目で見たりつかんだりすることもできないけれど、その匂いや熱さ、風向きは、意識すれば誰もが感じとることができるのです。ハイボールブームでは「みんながハイボールを飲み始めている」という空気が醸成されていきました。それは広告やお店の看板ではなく、テレビのニュースや新聞の報道、ネットのクチコミなどを通じてです。それを自然なかたちで目にする消費者は、どんどん「飲みたい気分」になるという図式です。  サントリーはマスコミやブロガーに働きかけて、積極的にこうした「空気づくり」を仕掛けていきました。このように、「空気」をつくって商品の売りにつなげる手法は「戦略PR」と呼ばれ、客観情報が溢れて「広告が効きにくくなった」と言われる時代に注目を浴びているのです。  ビルさんとの寿司屋にもどりましょう。あなたはここで「空気」を読むべきなのは言わずもがな、「空気をつくる」チャンスもあるわけです。ビルさんに英語で魚の種類について説明するあなた。「オーイエス! アイシー……」と感心するビルさん。そのタイミングで大将がビルさんに向かって一言――「いやあ、彼はホントによくすしネタのことわかってるんだよ!」。感激したビルさんは、「トーキョーで寿司にいくときは、あなた必ずキテクダサイ!」と破顔。「もちろんですよ!」と笑顔で答えながら、そっと部長に後ろ手に『SUSHI in ENGLISH』という本を手渡す――。そう、大将の口添えを仕込み、直前にすしネタの英語名をおさらいし、次の機会を見据えて部長にもさりげなくレクチャーを行う。仮に付け焼き刃だとしても、このように種を蒔く姿勢が結果につながるのです。そうして「何でも知っていて仕事のできる男である」という空気が、あなたという商品のまわりにぐんぐんつくられていきます。  マーケティングの世界では、いわば商品の新しい「出世方法」である戦略PR。この最新ノウハウを、「あなたの出世」に置き換えるとどうなるか。次回以降でくわしく指南していきましょう。 <文/本田哲也> ほんだ・てつや/1970年生まれ。セガの海外事業部を経て、1999年フライシュマン・ヒラード日本法人に入社。2006年、グループ内起業でブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『新版 戦略PR』(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。国内外の大手メーカーなどを中心に、戦略PR自体はもちろん関連する講演などの実績も多数。近著に『最新 戦略PR 入門編』、『最新 戦略PR 実践編』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)、『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など
最新 戦略PR 入門編

2009年に大ヒットした『戦略PR』を一部改訂。「入門編」としてリニューアル!

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