ベンタイン市場のロータリーは工事中。日本の国旗が見える
ベトナム政府は交通量の増加や運転マナーの悪さ、環境対策のために都市鉄道計画を打ち出している。ホーチミンは「ホーチミン市地下鉄」として6線の計画があり、すでに2020年の開通を目標に1号線の工事が進んでいる。14駅分、20km弱を29分で結ぶ路線で、ホーチミンの中心地における渋滞緩和が期待されている。
1区にあるベンタイン市場周辺は、2016年7月にオープンした日本のデパート「高島屋」も徒歩圏内で、日本人居住区も近いエリアだ。かつては、だだっ広いロータリーだったここも、今は工事現場を表す青い壁が張り巡らされている。よく見れば、現場には日本の国旗がはためいている。ここは日本の「三井住友建設」とベトナムの「CIENCO4(第4交通工事建設総公社)」が共同企業体(JV)として引き受けている区間になる。
別の区間では「清水建設」と「前田建設」のJVも工事を請け負うことになっているようだ。
高島屋とベンタイン市場の間。日本の企業名が見られる
こうした状況を見る限り、このところベトナムに進出する日系企業は元気なようである。小売りでは先の高島屋や「イオンモール」も進出し、ホーチミン市内と近郊に現在3店舗がある。飲食店も有名チェーン店がいくつも進出している。そこにこの地下鉄だ。
現地の若者に聞くと、「日本政府からの資金でこの地下鉄が作られています。今は工事の影響で交通は不便ですが、完成したら市民にも観光客にもメリットしかないですよ」と、手放しで喜ぶ。
かつては家電や車など、日本のメーカーが一番だともてはやされた。しかし、近年は韓国や中国企業に押され気味で日本メーカー神話が崩れ、東南アジアで日本をべた褒めする人は減っていた。それが今ベトナムで返り咲いているようだ。
ところが、よくよく聞くと、ホーチミン市民が日本を褒めるのは別の感情もあるようだ。
それを説明するのにうってつけな事例が、首都ハノイの「ハノイ都市鉄道」の計画だ。
ホーチミン同様、首都ハノイでも渋滞悪化を懸念して急ピッチで電車路線の建設が動いている。しかし、ハノイの計画8路線中2路線が近年にも開通と言われるのに、工事が遅々として進んでいないのだ。本来であれば1路線は2017年には開通する見込みだったにも関わらず、である。
「ホーチミンは日本が建設していますが、ハノイは中国が受注しているんです。事故が多発していて、全然工事が進んでいないと聞いていますよ」とホーチミンに住むベトナム人は語る。確かに、ハノイの方は事故多発というニュースを見かける一方で、ホーチミンの工事ではあまり聞かない。そのため、日本のJVの評判が上がっているのだ。
ホーチミンは歩道にまでバイクがあふれており、歩行者は歩きにくい
ただ、実際はハノイの計画においても日本のODA(政府開発援助)も入っている。1号線と2号線の半分は日本のODA、中国のODAは2号線の残りと3号線になる。それに、事故のニュースをよく読み返すと、ゼネコンは中国企業でも事故を起こした工事会社はベトナムや韓国系企業のようである。
なぜホーチミン市民がその点に目をつむって、あえて日本企業を持ち上げるのか? それは「反中感情」だ。
ベトナムは、中国とは歴史的に領土・領海問題で衝突が絶えない。また、紀元前の頃に、ベトナムは中国(の当時の王朝)に虐げられたことなども「反中感情」の要因だ。