ニコニコアンケートの大規模「思想信条・支持政党」調査に孕む危険性――江藤貴紀「ニュースの事情」
11月21日から24日の期間、ニコニコ動画が、ユーザーの性別や年齢、暮らしへの実感という情報とともに「支持政党」や「嫌いな国」を調べる大規模なアンケートを実施した。
参照:アナタの一番嫌いな国は? 「ニコニコアンケート」がリニューアルし基礎調査に約49万人が回答 http://itlifehack.jp/archives/6635
そもそも「嫌いな国」などを聞くところに作為的なものを感じざるを得ないが、それ以前に私はちょっと恐ろしく感じてしまった。ニコニコ動画などのサービスは氏名や電話番号や住所、クレジットカードなども有料会員の登録時には必要であり、そうした個人情報を握られているところに思想信条まで情報として提示することに危うさを感じてしまったからだ。
もちろん、ニコニコ動画側は、この49万人全員の回答内容については、現在のniconico利用規約によって本人の同意が無い限り、個人を識別できる形では第三者提供は出来ないと規定している。
しかし、実は以前――少なくとも今年の4月末日までは、ニコニコ動画側はユーザーの個人情報(生年月日の登録は必須、あと有料会員ならクレジットカードの氏名も登録)を、自由に第三者(例えばどこかの会社や政党)に売却したり自社で使うことが可能になる利用規約を持っていた。
参照:エコーニュース「ニコニコ動画 政治アンケートを個人情報と紐付け中 第三者への提供も可能な定め」http://echo-news.net/education/nico-telescreen-records-what-you-say-and-who-you-are
これは他にほとんど例を見ないくらい変わった、個人情報の保護が薄い利用規約だったのだが、毎月10万人規模で行われていた従来の「ニコ割」というアンケートに回答した人たちはどれだけそれに気づいていたのだろうか。またそういう利用規約を持った企業が「政治アンケート」という普通の私企業が行わない事業をあえてする理由とその帰結はどういうことがありうるだろうか。つまり、「自分はアメリカが嫌い、とか韓国が嫌い~支持政党はXXX党」というふうな回答が、どこの政党に黙って売り飛ばされても、文句はいえない(同意があるので表面上は個人情報保護法上も問題がないという事になる)ことになるのだ。
しかし、一般のユーザーでこの点を理解してニコニコ動画を使い、サイト内で検索を行い、動画にコメントを書き込んだり、場合によっては恥ずかしい動画をみたりしている人は非常に少なかったのではないか。これらが一体となって保管されていて、誰かに売られると、(本人によるニコニコ動画の使い方次第だが)社会生命が、終了する危険性もあったのだ。
またその後、11月29日にニコニコ動画とUstreamで「ニコファーレ」の選挙前党首討論会が放送されて、20万人が合計で視聴した。このうち、何人がニコニコ動画経由でコメントも書き込んでいたかは不明だが、実はこの部分にはアンケートの所にあった個人情報の第三者提供制限は、適用されない。つまり政治番組に書き込んだコメントはすべての個人情報と紐付けて提供される恐れがあるのだ。
49万人規模の「ニコニコアンケート」は今のところ、プライバシーポリシーで第三者への個人識別が可能な状態での提供を制限している。思想信条まで問う調査を実施する会社としては、これは極めてまっとうな制限であり、当然のことであろう。
しかし、それで安全かというとそうでない。筆者の私見ではダイレクトに思想信条や政治傾向を聞いてくるニコニコ動画のサービスは考えうる限り、いまだかなり危険な部類に入る。というのも、実はこのプライバシーポリシー(正式には個人情報保護指針)を含むニコニコ動画の一切の規約は、運営会社側が自由に変更できる定めとなっている。そのため、いつ昔のように勝手に個人情報を紐付けてアンケート内容とともに第三者へ提供可能な定めとされても、利用者は文句が言えないのである 。
現に、当初のプライバシーポリシーにはさほどの問題が無くても、多くのウェブ・PC関係のサービスは企業側による利用規約の一方的な変更の事例が数多く存在しているのだ
⇒【その2】ワシントン・ポストが報じたiCloud、疑惑の挙動(http://hbol.jp/14797)に続く
<取材・文/江藤貴紀 (エコーニュース:http://echo-news.net/)>
【江藤貴紀】
情報公開制度を用いたコンサルティング会社「アメリカン・インフォメーション・コンサルティング・ジャパン」代表。東京大学法学部および東大法科大学院卒業後、「100年後に残す価値のある情報の記録と発信源」を掲げてニュースサイト「エコーニュース」を立ち上げる。
― ニコニコアンケートの大規模「思想信条・支持政党」調査に孕む危険性【1】 ―
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