三度目の身売り劇、迷走する「かっぱ寿司」に再生の道はあるのか?
10月末に発表された、居酒屋「甘太郎」や焼き肉店「牛角」などをチェーン展開する外食産業大手のコロワイドによる「かっぱ寿司」の買収劇。「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトホールディングスは12月4日にコロワイドの連結子会社となる予定だ。
コロワイドは「当社グループにおける「肉」と「鮮魚」の食材比率が適切なバランスとなり、一層の経営基盤の安定化に資する事が期待される」とし、低迷するかっぱ寿司の業績についても、16年3月期には売上高は前年比で5%増と試算するなど、買収の成功に自信を見せている。
しかし、「かっぱ寿司」は去年の11月に「元気寿司」との間で統合を見据えた業務提携を締結したばかり。かっぱ寿司の社長に元気寿司の社長が就くなど、実質的に“救済合併”に近いようなものだったが、この提携を主導した、両社の筆頭株主だったコメ卸最大手の神明ホールディングが、1年も経たずにあっさりとコロワイドに譲り渡すのは、穿ってみれば「かっぱ寿司」の再生が困難と判断したとも捉えられる。それを裏付けるかのように、今のところ業界周辺では厳しい見方が多いのだ。
業界関係者の間で「食品業界を知り尽くした男」との異名をとる、「食品安全教育研究所」代表の河岸宏和氏は、かっぱ寿司が現在提供している寿司のレベルに苦言を呈する。
「買収するメリットがわかりません。チェーンのバリエーションが増えることくらいで、客層も違うし、仕入れの効率化といっても居酒屋で出す刺身くらいのもので、大きな効果は望めない。何よりかっぱ寿司の場合、客に提供するモノが悪すぎますよ。ネタ、シャリ、どれをとっても本来の寿司の味には程遠い」
それも当然で、激安回転ずし店で提供される寿司ネタの場合、大半は海外の工場で一切れずつ加工され、化学的に洗浄された後に冷凍パックで送られてくるのだという。安いのは大いに結構だが、それにはそれなりの理由があるわけだ。
「加えて言えば、子供が騒いで走り回っていても何の注意もしないなど、従業員の教育もできていない。業績が悪化するのも必然です。さらに、すしロボットを使うから職人は育たないし、仕入れ先もほとんど海外、そしてお客はマズいものを食べさせられる。日本の産業として誰もハッピーにならない。そういう形態を根本から改革しなければ何も変わりませんよ。ところがコロワイドにしても、こう言っては何だけどお客さんに提供する商品の質にこだわっているとは言えない。『牛角』にしても、かつては店内で肉を切り分けていたはずですが、今はセントラルキッチンで切り分けたものを各店に配送しています。肉にしろ魚にしろ、本来は切りたてが美味しいのに、経営合理化が優先されているんです。元気寿司も店舗によってはシャリを1日一回しか炊かないなど、質という意味では五十歩百歩だけど、同業で仕入れの集約が見込める分、まだマシだったかもしれません」(河岸氏)
振り返れば、07年にも当時日の出の勢いだった「すき家」のゼンショーホールディングスが業績不振の「かっぱ寿司」を買収したものの、やはり改革が思うように進まずに1年足らずで手放している。
かっぱ寿司が他社との提携や統合が上手くいかない要因として、一説には創業家が「かっぱ寿司」のブランド名を残すことにこだわっているからとも言われるが、コロワイドが「かっぱ寿司」のブランド名を残しつつ、「安かろう悪かろう」のブランドイメージを払拭するのも、そう簡単なことではないだろう。となると、近い将来に4度目の“身売り”ということもあり得るかもしれない。
そういえば最近、「♪かーっぱ、かーっぱ、かっぱのマークのかっぱ寿司」という、やたら耳に残るフレーズを乗せたテレビCMも、とんと目にしなくなった。はたして迷走を続ける「かっぱ寿司」が復活し、再び脚光を浴びる日は来るのだろうか。
【河岸宏和氏】
食品安全教育研究所所長。「農場から食卓まで」の品質管理を実践中。最新刊『「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。』(東洋経済新報社)がベストセラーとなっている。
<取材・文/杉山大樹>
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